方法:なぜそれが言えるのか ― The Kuriyama Protocol 第0.5章
当たった予測は、4件ではなく1件だった
方法:なぜそれが言えるのか ― The Kuriyama Protocol 第0.5章
書籍の章ごとに公開している、その15本目で、章別の記事の最後です。第0.5章は、書籍の方法の章です。主張がどの手続きで得られ、どう検証されたか。読者はこの章を読んだ上で、以降の各章の判定をどれだけ信用するかを決めてよい、と書籍は書いています。
この章には、6つの手続きと、それを使って自分の主張を8件捨てた記録と、理論が先に予測し、後からデータが一致した4件が書かれています。方法の章は、書籍の信用を支える章です。だからこそ、17本の記事で直してきたことを、最後にこの章に当てはめました。
5つの穴が見つかりました。いちばん大きいのは、「予測が当たった4事例」のうち、記事のシリーズでの検証を経て、そのまま当たりと言えるのが1件だけになったことです。この記事の題は、そこから取りました。8節にまとめています。
- 1 The Kuriyama Protocol の定義
- 2 片側対照:対照側も変わる
- 3 終了則と、順問題探索
- 4 代償トリガーと、最小介入原理
- 5 偽装コスト順位:偽装しにくいことと、正しく読めることは別
- 6 著者被験と、検証装置としてのAI
- 7 棄却の記録と、予測が当たった事例を数え直す
- 8 この記事を書きながら見つけた5つの穴
- 9 登録する予測(5件)
- 10 20本を終えて
- English summary/文献/作り方
1 The Kuriyama Protocol の定義
主張
The Kuriyama Protocol とは、次の4つの条件を満たす系で、統計に頼らずに個体の内部で因果を取るための、6つの手続きの総称です。条件は、変数が多すぎて全部を測ることが実用にならない、自己申告が最も信頼できないチャネルである、対照群を作れない(人は1人ずつ来る)、報酬が外から与えられない(競技者ではない)、の4つです。
6つの手続きは、片側対照(片側だけ処置し、本人に左右を比べてもらう)、終了則(どこで終えるかを処置の前に決める)、順問題探索(原因の追及をやめ、策を打ち、効いた策から原因を事後に推測する)、代償トリガー(代償が出たときだけ上流をたどる)、偽装コスト順位(情報のチャネルを、偽装に要するコストで順序づける)、著者被験(他人に課さない負荷は自分の身体で実測する)です。
[書籍の記録]
この6つは、現場では20年以上、名前のないまま使われていた。記述名を与えたのは2026年9月であり、本書のための事後の整理である。手続きが先にあり、名前が後から付いた。
導出と照合
統計が使えない理由として、群を作れない、盲検にできない、装置がない、同じ人が二度と同じ状態にならない、の4つが挙げられています。残る道は、同じ人の、同じ時刻の、内部での比較です。個体内で因果を取る手続きは、N-of-1 試験、単一事例実験計画、皮膚科の臨床試験で使われる左右比較の計画(split-body design)に先例があります。採用。
ただし、定義の表の順問題探索の説明は「並列に打って事後に同定する」のままでした。第15弾で、事後に原因を推測するには策を1つずつ打つ必要があり、「並列」は候補を並べておくことだと直し、本文の0.5-4には反映してありましたが、この表には届いていませんでした。8節の穴4の一部です。
2 片側対照:対照側も変わる
主張
片側だけを処置し、本人に左右を比べてもらう。これによって、個体差という最大の雑音が消えます。
観察
2026年8月、講座にて
「じゃあ今こっちだけ右側だけほぐしましたよね。右回転どうなったちょっとやりやすいのわかる反対側の回転どうあんま変わらないね。(中略)胸鎖骨周り改善するとこんだけ体の回転変わります。」
2026年5月、講座にて
「すごい簡単に左側だけ解除したんですけど,これでもう一回立ってもらってどうかなっていう感じですね(中略)足音変わりましたねえー。」 受講者B:「わかりますうん。」 指導者:「えーあ、同じぐらいの音になった。」
2026年3〜4月、講座にて
「オッケー足長くなりましたかなった。はい。これ今皆さんね自分で自分の足に暗示をかけてるんです。こんだけやったから柔らかくなったに違いないってもう暗示がかかってます。で、後ろについて両足前にポイ。はい、目閉じてみて。どっちの足の方が長い感じするじゃあどっちの足の方がはっきりわかる。」
導出と照合
書籍はこの節で、すでに3つの弱点を自分で書いています。測定が介入を兼ねるので同じ条件で繰り返せない。処置した側を本人が知っているので期待による効果を排除できない(3つ目の記録は、指導者自身がその場で言っている例)。処置後の左右差だけを比べていて、もともとの左右差を引いていない(第5弾で、差の差による推定を加えました)。第15弾では、感じ方の向きを先に伝えている記録があることも加えました。
この記事で、4つ目の弱点を加えます。対照側も変わる、という問題です。上の式は、処置しなかった側(sL)が処置によって変わらないことを前提にしています。しかし、片側だけをストレッチすると、ストレッチしていない側の関節の可動域も、中程度の大きさで広がることが、研究をまとめた分析で報告されています(Behm ら, 2021)。神経系を通じた全身への影響や、気持ちのゆるみが関わると考えられています。
この問題は、片側対照の価値を下げるものではありません。むしろ、片側対照で差が出たときは、その差は控えめな見積もりだということになります。直すべきなのは、差が出なかったときの読み方です。第15弾の「差が分からない」の原因(処置が効かなかった、感度が低い、答えの基準が厳しい)に、4つ目として両側が変わったが加わります。見分けるには、処置の前後で、対照側の可動域や片脚立ちの時間を、外から測れる形で記録しておけば足ります。8節の穴2です。
書籍はまた「左右の差を知覚した瞬間に、学習の信号が立つ(g が1になる)」と書いていましたが、第16弾の定義に合わせて「ずれが更新の経路に届く」に改めます。
判定
採用。ただし弱点を4つにし、対照側の変化を記録することを手続きに加えます(予測92)。
3 終了則と、順問題探索
終了則
どこで終えるかを、処置の前に決めます。片側の改善は、新たな非対称を生むからです。目的が指定されていなければ、デフォルトの解である左右の揃った状態で終えます。
2026年3〜4月、講座にて
「じゃあ今日ね皆さんこのままお帰りいただくとどうなるかっていうと脳みそは。(中略)右体重乗りやすいなと思うんですね。」
使いやすくなった側は使われ、使われた側はさらに使いやすくなる。片側の処置は、学習の勾配を片側に作る操作でもある、という書籍の導出は鋭く、残ります。ただし、終える条件の d許容 は「本人が左右の違いを感じ取れなくなる水準」と書かれていて、第15弾の穴3(同じ「差が分からない」が、終了則では「揃った」、片側対照では「感じ取れていない」の意味になる)が、この節には届いていませんでした。第15弾で第10章に加えた手順(先に薄い板で本人の感度を確かめ、確かめられない人は外から測れるもので判断する)を、ここにも入れます。
順問題探索
人の運動で、結果から原因を求める問題(逆問題)は、解が1つに決まりません。一方、策を1つ打って効いたかどうかを見る問題(順問題)は解けます。原因の同定は、効いた策が分かった後に行います。医学の「治療による診断」と同じ考え方です。
この考え方は正しく、本文には第15弾の「1つずつ打つ」も反映されています。ただし書籍の予測(原因を特定してから介入する設計より、並列に打って事後に同定する設計の方が、改善の検出率が高い)は、「並列」のままでした。同時に複数の策を打てば、改善は大きく出ても、どれが効いたかは分かりません。予測は、「1つずつ打った方が、次の回に効いた策だけを打ったときの再現率が高い」という形の方が、この手続きの本来の狙い(効いた策から原因を推測する)を確かめられます(予測96)。
4 代償トリガーと、最小介入原理
主張
全関節を常に測るのではなく、代償が出たか出ないかという1ビットを見て、出たときだけ上流をたどります。
著者の口述(日付未取得)
「各関節の可動域を単体で見ることもあるが、その動作ができているのであれば目標可動域に到達しているとして計測自体をしない。代償運動が出た際に関してのみ、ボトルネックとなっている関節から特定を始め、医学書記載の可動域を目標に施術なり運動訓練を行う。」
日付未取得、講座にて
「足首が硬い人どうなるの。ってここが動いてない部分の動きが、他が代償を払います。(中略)その両端が被害を被るんです。」
導出と照合
常に全部を測るコストを、代償の有無という1ビットに圧縮する、という導出は、現場の手続きとして合理的です。書籍は照合に、Todorov と Jordan(2002)の最小介入原理を挙げ、「課題の達成に関係しない偏差は修正しない方が最適である」とし、「追うべきは課題の達成を妨げている偏差、つまり代償として現れるものだけである」と書き、さらにこれを「予測が当たった事例」の1つに数えていました。
確かめると、この対応づけは、向きが逆でした。最小介入原理が言っているのは、平均の軌道からのずれは、課題の目標を妨げるときだけ修正され、冗長な(課題に関係しない)方向のばらつきは許される、それが不確かさのもとで最適な制御だ、ということです(Todorov & Jordan, 2002)。身体には、同じ課題を達成する関節の組み合わせが無数にあります。最小介入原理から見れば、ある関節が動かないときに別の関節が肩代わりして課題を達成すること(代償)は、まさに冗長性の上手な使い方であり、修正すべきずれではありません。
では、現場が代償を追うのは間違いなのか。そうではありません。現場が代償を問題にするのは、課題の達成とは別のコスト、つまり肩代わりした関節に余計な負担がかかり、長い目で見て痛みや障害につながるという理由からです。講座の発言の「その両端が被害を被る」は、まさにそのコストを指しています。これは、最小介入原理が想定している課題(その場の目標の達成)には入っていない、別の目的です。
したがって、正確にはこう書けます。最小介入原理は「課題の達成に関係しないずれは放っておく」と言い、現場の代償トリガーは「課題は達成されているが、長期の負担という別のコストを生むずれだけを追う」と言っている。両者は「全部を測らず、意味のあるずれだけを追う」という点で同じ構造を持つが、何を意味のあるずれとするかが違う。代償トリガーは、最小介入原理の当たり事例ではなく、それに「関節の負担」という目的を加えた拡張です。8節の穴1の一部です。
判定
修正して採用。最小介入原理との一致は「同じ構造」から「構造は同じだが、代償を追う理由は最小介入原理の外にある」に改め、予測が当たった事例からは外します(予測94、95)。
5 偽装コスト順位:偽装しにくいことと、正しく読めることは別
主張
人から得られる情報は、偽装に要するコストで順序づけられます。書籍は5つの順位を置いています。
- 1.偽装するには内部状態そのものを変えるしかない:肌の血色、瞳孔、(意識していない場面の)呼吸
- 2.内部状態に従って出るが、部分的には意図で上書きできる:アウターマッスルのトーン、屈曲・内転・内旋への収束
- 3.意図で変えられるが、本人が気づいていない:腕組み、足組み、顔や身体に触れる、舌なめずり、ため息
- 4.意図で自由に変えられる:言葉の内容
- 5.意図で自由に変えられる:自己申告(睡眠時間、痛み、体調)
導出
書籍は、順位を決めているのは随意の経路が通っているかどうかだとし、次の式を置いていました。
この式には、意図によらない雑音の項がありません。瞳孔の大きさを最も大きく決めているのは、内部状態ではなく、周りの明るさです。近くを見ると瞳孔は小さくなり、年齢や薬でも変わります。第13弾で「瞳孔を読むときは周りの明るさをそろえる必要がある」と書いたのは、このためでした。肌の血色も、部屋の温度や照明で変わります。
順位3にも注意が要ります。腕組みや顔に触れる仕草が、隠している内部状態を漏らすという考え方は、Ekman と Friesen(1969)の「非言語の漏洩」の仮説にさかのぼり、書籍もこれを照合に挙げていました。しかし、うそを見抜く手がかりを集めた大規模な分析では、多くの非言語の行動は、うそとの関係がないか、弱い関係しかありませんでした(DePaulo ら, 2003)。仕草が内部状態と無関係だというわけではありませんが、1つの仕草から特定の内部状態を読むことには、確かな根拠がありません。8節の穴3です。
判定
修正して採用。偽装コストの順位はそのまま残し、「信頼度」を「偽装への強さ」と呼び直します。読みの正確さには意図によらない雑音が効くこと、瞳孔と血色は明るさと温度をそろえて読むこと、順位3の仕草は単独では読まないことを明記します(予測93)。
6 著者被験と、検証装置としてのAI
著者被験
一般のクライアントに課さない負荷は、著者自身の身体で実測します。疲労困憊までの試行を、報酬のない一般のクライアントに求める設計は成り立たないからです。
著者の口述(日付未取得)
「自身では15キロ3時間半の歩行や、動けなくなる限界を知るために走り続ける経験をしており、貴重なデータは取れたが、疲労困憊を突き詰めるには精神的強さと強い動機が必要だと感じた。」
書籍は、自己実験の限界(n=1、盲検にできない、期待が混入する)を書き、得られるのは仮説であって検証ではない、と判定しています。この判定は適切です。採用。
検証装置としてのAI
書籍の理論は著者のもので、AIが果たしたのは、その理論を叩く装置の役割だ、と書籍は書いています。機能は3つで、次元解析、反証の要求、文献照合です。そしてAIが与えたのは正解ではなく、反証のコストの低下だ、と。従来、自分の主張に文献上の根拠があるかを調べるには数時間から数日かかり、そのコストが高い限り、人は自分の主張を積極的には疑わない。コストが数分に下がると、疑うことが日常の作業になる。
同時に書籍は、AIの限界も記録しています。逐語の抽出を依頼したところ、原典に存在しない6件が、番号と時刻を伴って提示され、「原典に無ければ逐語なしと書け」という2段階目の問い直しで、6件すべてが消えた。だからAIの出力そのものは根拠にならず、根拠になるのは原典との突き合わせを通過したものだけだ、と。
この節の主張は、記事のシリーズそのものが実例になりました。20本の記事のほぼすべてで、この記事の作り方(AIが計算と文献照合を行い、判定は著者が行う)によって、書籍の側に穴が見つかりました。反証のコストが下がったことは、疑う作業を日常にしましたが、疑う作業そのものを不要にはしていません。採用。
7 棄却の記録と、予測が当たった事例を数え直す
棄却の記録
書籍は、自分の主張を捨てた記録を8件挙げています。マグネシウムの経皮吸収、首の回転の90%、死後硬直を根拠とした屈曲への収束、乗算モデル、意識と無意識の比、固有張力を定数とする扱い、骨盤の回旋の歩幅への寄与、「鏡は見れば見るほど下手になる」の8件です。そして棄却3について「主張そのもの(全身の興奮は屈曲・内転・内旋へ収束する)は、一度も変わっていない。変わったのは、その理由の説明である」と書き、棄却の多くは主張ではなく理由づけが落ちたものだ、とまとめていました。
記事のシリーズを経て、このまとめは当てはまらなくなりました。章ごとの記事では、毎回4つか5つの穴が見つかり、その中には、主張の向きそのものが変わったものがありました。
- つまずきの原因は「骨盤を持ち上げられない」ではなく「支える側で骨盤が下がりすぎるのを止められない」(第14弾)
- ロッカーは「上下動を減らす」機構ではなく「1歩ごとの衝突をなめらかにする」機構(第14弾)
- 古いパターンは「薄まる」のではなく「場面ごとに競り負けている」(第16弾)
- フィードバックを抜くことの文献の裏づけは「最も明確」ではなく「確かめられていない」(第16弾)
- 片脚立ち上がりは「上手さ」ではなく「体重あたりの脚の力」を測っている(第17弾)
- 「位相は外から与えられない」ではなく「位相の目標は共通に書けるが、その身体の時計は外から見えない」(第18弾)
棄却の記録は、手続きが自分の主張を捨てられることの証明として置かれています。そうであれば、記録は8件で止めるのではなく、記事のシリーズで捨てたものも含めて更新し、「主張ではなく理由が落ちた」というまとめも、「理由が落ちたものと、主張の向きが変わったものの両方がある」に改めるべきです。8節の穴5です。
予測が当たった4事例を、数え直す
書籍は、理論が先にあり、後からデータが一致した事例を4件挙げていました。
- 上下動と腕振りの周波数の比2:1が、パラメトリック励振の条件を満たす
- 2つの基準速度とフルード数:時速4.8キロは最適歩行の Fr ≈ 0.25、時速7キロは歩行から走行への切り替えの Fr ≈ 0.5 に対応する
- 代償トリガーと最小介入原理が同じ構造だった
- 呼吸のリズムを指示しない判断が、「Π₆ は外から数値で与えられない量であり、解は身体の中にあるので与える必要がない」という理論側の帰結と一致した
記事のシリーズの訂正を当てはめると、次のようになります。
- 事例1:外れ。周波数の比は正しいのですが、腕の自然な揺れと歩行の周期が26〜28%ずれていて、上下動だけでは腕振りを育てられないことが計算で分かりました。腕振りの主な駆動は体幹のねじれによる肩の動きで、上下動は補助にとどまります(第14弾)。理論が予測した「上下動が腕振りを駆動する」は、当たっていません。
- 事例2:半分だけ当たり。時速7キロと Fr ≈ 0.5 の一致は残ります。時速4.8キロと最適歩行の一致は緩いものでした。ヒトで実測された最適の速さは秒速約1.23メートルで、フルード数ではおよそ0.17〜0.21です(第11弾)。
- 事例3:当たり事例ではない。4節で書いたとおり、最小介入原理から見れば、代償は冗長性の上手な使い方で、修正すべきずれではありません。代償トリガーは、最小介入原理に「関節の負担」という目的を加えた拡張です。
- 事例4:理論側の帰結が書き換わった。終章(第18弾)で、「位相は外から与えられない」を「位相の目標は単位のない形で共通に書けるが、その身体の時計は外から見えない」に書き直しました。呼吸のリズムを外から数値で指示しない判断は、書き直した理論とも矛盾しません(その人の時計は外から見えないので、その人の身体に選ばせる)。しかし「理論が先に予測し、データが後から一致した」事例ではなく、現場の判断と理論の解釈が一致している、という段階です。
数え直すと、「理論が先に予測し、後から独立のデータが一致した」と今でも言えるのは、時速7キロと歩行から走行への切り替え(Fr ≈ 0.5)の1件だけです。そしてこの1件も、書籍自身が書いているとおり、事前に登録された予測ではありません。
これは、書籍にとって不利な結果です。しかし、記事のシリーズで86件以上の予測を、外れた場合に何が壊れるかを書いて登録してきたのは、まさにこの状態から抜け出すためでした。当たった事例を後から数える方法では、当たりは増える方向にしか動きません。事前に登録した予測を検証する方法なら、当たりも外れも、同じ重さで記録に残ります。8節の穴1です。
判定
修正。0.5-10 を「予測が当たった4事例」から「予測が当たった1事例と、外れた・弱まった・解釈に変わった3事例」に改めます。0.5-9 の棄却の記録は、記事のシリーズで捨てたものを加えて更新し、まとめの一文を改めます。
8 この記事を書きながら見つけた5つの穴
穴1 「予測が当たった4事例」のうち、当たりと言えるのは1件だけになった
事例1(上下動が腕振りを駆動する)は第14弾の計算で外れ、事例2は時速7キロの半分だけが残り(第11弾)、事例3(最小介入原理)は対応づけの向きが逆で、事例4(位相は外から与えられない)は第18弾で理論側が書き換わりました。今でも当たりと言えるのは、時速7キロと Fr ≈ 0.5 の一致の1件です。この記事の題は、ここから取りました。
穴2 片側対照では、対照側も変わる
片側だけのストレッチで、ストレッチしていない側の可動域も中程度広がることが報告されています(Behm ら, 2021)。片側対照の式は、対照側が変わらないことを前提にしていました。片側対照は処置の効果を小さく見積もる方向にずれ、「差が分からない」の原因に「両側が変わった」が加わります。
穴3 偽装しにくいことと、正しく読めることは別だった
信頼度の式に、意図によらない雑音(瞳孔なら明るさ、血色なら温度)の項がありませんでした。偽装コストの順位は偽装への強さの順位で、読みの正確さの順位ではありません。また、仕草から内部状態を読むことには、確かな根拠がありません(DePaulo ら, 2003)。
穴4 後の記事の訂正が、方法の章の3か所に届いていなかった
定義の表の順問題探索(「並列に打つ」のまま、第15弾)、片側対照の「g が1になる」(第16弾)、終了則の d許容(「差が分からない」の2つの意味、第15弾)です。方法の章は他のすべての章が参照する章なので、ここに訂正が届いていないことは、他の章より影響が大きいと考えます。
穴5 棄却の記録が8件で止まり、「落ちたのは理由づけ」というまとめが当てはまらなくなった
記事のシリーズでは、主張の向きそのものが変わった訂正がいくつもありました。棄却の記録を更新し、まとめを「理由が落ちたものと、主張の向きが変わったものの両方がある」に改めます。
5つの穴は、どれも6つの手続きそのものを捨てるものではありません。片側対照も、終了則も、順問題探索も、代償トリガーも、偽装コスト順位も、著者被験も残ります。崩れたのは、手続きがどれだけ当たってきたかの自己評価です。方法の章が書籍の信用を支える章である以上、ここを正直に数え直すことが、この記事の最も大事な仕事だと考えました。
9 登録する予測(5件)
第1弾から第19弾までで、91件の予測を登録しました。この記事から5件を追加します。番号は92から続けます。いずれも、この記事の公開日(2026年11月3日)に登録したものとします。
予測92 片側だけを処置すると、処置しなかった側の可動域も、処置しない日に比べて広がる。その広がりの分だけ、片側対照の左右差は処置の効果より小さく出る
前提:片側の処置の効果は、処置しなかった側にも及ぶ(穴2)。
測定方法:同じ人に、別の日に2つの条件を行ってもらいます。①片側だけ(たとえば右の太ももの裏)を講座と同じ手順でほぐす、②同じ時間、何もせずに座っている。両条件の前後で、左右の太ももの裏の柔らかさ(仰向けで脚を上げる角度、または前屈の指先の位置)を、条件を知らない測定者が測ります。
予測:①では、処置しなかった左側も、②の左側に比べて広がる。①の左右差は、①の右側の変化から②の変化を引いた値より小さい。
理論が分岐する点:書籍の元の式の前提(対照側は変わらない)が正しければ、①の左側は②の左側と同じになります。
外れた場合に何が壊れるか:穴2の心配は不要になり、片側対照の左右差は、処置の効果をそのまま表していると読めます。
予測93 照明をそろえない現場では、瞳孔の大きさから読んだ緊張の度合いは、心拍で測った緊張の度合いとほとんど一致しない。照明をそろえると一致が上がる
前提:偽装しにくいチャネルでも、意図によらない雑音が大きければ正しく読めない(穴3)。
測定方法:講座のさまざまな場面(窓際、室内の中央、照明の下)で、受講者の瞳孔の大きさをスマートフォンで撮影し、同時に心拍(指先のセンサーなど)を記録します。次に、同じ明るさの場所に移って同じことを行います。瞳孔の大きさと心拍の相関を、照明をそろえない条件と、そろえた条件で比べます。
予測:照明をそろえない条件では、瞳孔と心拍の相関は弱い。照明をそろえた条件では、相関が強まる。
理論が分岐する点:瞳孔が明るさの影響をほとんど受けずに内部状態を表すなら、照明をそろえても相関は変わりません。
外れた場合に何が壊れるか:穴3の心配の一部は不要になり、瞳孔は現場でもそのまま読めることになります。
予測94 課題を達成できている代償(たとえば、しゃがむ深さは足りているが、体幹を大きく前に倒している)を矯正すると、その場の課題の成績は変わらないか下がるが、数週間のうちに、肩代わりしていた部位の負担の訴えが減る
前提:代償は、課題の達成から見れば冗長性の上手な使い方であり、現場がそれを追う理由は、長期の負担という別のコストにある(穴1、4節)。
測定方法:足首が硬く、しゃがむときに体幹を大きく前に倒す人を2群に分けます。一方は足首の可動域を広げる介入を行い、もう一方は行いません。しゃがむ深さと時間(課題の成績)、そして腰や膝の負担の訴え(0〜10)を、介入の直後と4週間後に記録します。
予測:介入の直後、しゃがむ深さと時間は、2群でほとんど変わらないか、介入群でわずかに下がる。4週間後、介入群では腰や膝の負担の訴えが減る。
理論が分岐する点:書籍の元の対応づけ(代償は課題の達成を妨げる偏差)が正しければ、介入の直後から、課題の成績が上がります。
外れた場合に何が壊れるか:直後から課題の成績が上がれば、代償は課題の達成も妨げていたことになり、最小介入原理との対応づけは、書籍の元の形で成り立ちます。
予測95 足首の反りが小さい人ほど、しゃがむときに膝が内に入り、足首の反りを広げると、膝の向きについて何も指示しなくても、膝が内に入る量が減る
前提:動かない関節の仕事は、その両隣の関節が肩代わりする(4節の講座の発言)。
測定方法:膝をついて壁に向かい、膝を壁につけたまま足をどこまで壁から離せるか(足首の反りの簡易な測り方)を測ります。両脚でしゃがむ動作を正面から動画で撮り、膝が内に入る量を測ります。足首の反りを広げる介入(ふくらはぎのほぐしとストレッチ)を4週間行い、膝の向きについての指示は一切せずに、もう一度測ります。
予測:足首の反りが小さい人ほど、膝が内に入る量が大きい。介入で足首の反りが広がった人では、膝が内に入る量が減る。
理論が分岐する点:膝が内に入るのが足首の代償ではなく、股関節の筋力や習慣によるものなら、足首の反りが広がっても、膝の向きは変わりません。
外れた場合に何が壊れるか:「両隣が代償を払う」という代償トリガーの探索の向きが、少なくとも足首と膝については成り立たないことになります。
予測96 策を1つずつ打った場合は、同時に複数打った場合より、その場の改善は小さいが、次の回に「効いた策」だけを打ったときに改善が再現する割合が高い
前提:順問題探索の狙いは、効いた策から原因を推測することであり、それには策を1つずつ打つ必要がある(3節、穴4)。
測定方法:同じ訴え(たとえば片脚立ちのふらつき)を持つ人を2群に分けます。一方には、候補の策(足裏、股関節、目線など)を1回のセッションで1つずつ打ち、そのつど片脚立ちの時間を測ります。もう一方には、同じ策を同時にすべて打ちます。それぞれ「効いた」と判断した策を記録し、次の回に、その策だけを打って改善が再現するかを見ます。
予測:その場の改善は、同時に打った群の方が大きい。次の回の再現の割合は、1つずつ打った群の方が高い。
理論が分岐する点:同時に打っても効いた策を正しく推測できるなら、再現の割合は2群で同じになります。
外れた場合に何が壊れるか:第15弾で加えた「1つずつ打つ」という修正が不要だったことになり、書籍の元の「並列に打って事後に同定する」が、そのまま運用できることになります。
10 20本を終えて
この記事で、書籍のすべての章を記事にしました。最初の5本と、序章から終章までの15本、あわせて20本です。
章ごとの記事では、毎回「この記事を書きながら見つけた穴」を書いてきました。穴は、ほぼ毎回4つか5つ見つかりました。予測は96件になりました。
この最後の記事で、書籍の方法の章が自分に与えていた評価(予測が4件当たった、落ちたのは主張ではなく理由づけ)を、数え直しました。当たった予測は1件になり、主張の向きが変わった訂正がいくつもあったことが記録に残りました。
これを、方法が失敗した証拠とは考えていません。方法の章が書いていた手続きの中で、最も重いのは「自分の主張を捨てられること」でした。0.5-9 の言葉では「自分の主張を捨てられない手続きは、検証ではなく確認である」。20本の記事で起きたことは、その手続きが、書籍の最後の章まで、そして方法の章そのものにまで働いた、ということです。
96件の予測は、どれも外れたら何が壊れるかを書いてあります。これからは、それを1件ずつ検証していく段階です。予測を検証してくださる方、計算や文献の誤りを見つけてくださる方からの連絡を、心から待っています。私は研究の作法を正式に学んだ人間ではありません。24年間、現場で観察と試行を続けてきただけです。誤りがあれば、新しいバージョンで直します。訂正前の版も、参照できる形で残します。
連絡先:contact@medi-gym-revital.com
引用:栗山智光(2026)「当たった予測は、4件ではなく1件だった ― 方法:なぜそれが言えるのか」The Kuriyama Protocol 記事第20弾(第0.5章). DOI: 10.5281/zenodo.23905644
English summary
One Successful Prediction, Not Four: Method, or Why These Claims Can Be Made (The Kuriyama Protocol, Chapter 0.5)
Chiaki Kuriyama, Human Concierge Association (Japan)
Published 2026-11-03 · DOI: 10.5281/zenodo.23905644 · Contact: contact@medi-gym-revital.com
Part 20 of a series; the fifteenth and last of fifteen chapter-by-chapter articles. Parts 1–19: 10.5281/zenodo.23587879 · 23587670 · 23723510 (Part 3 v2) · 23609857 · 23610607 · 23682055 · 23684537 · 23684996 · 23685960 · 23686289 · 23720048 · 23723725 · 23834848 · 23854475 · 23886603 (Part 15 v2) · 23859894 · 23874674 · 23886834 · 10.5281/zenodo.23903352
Abstract
Chapter 0.5 sets out the book's method: six procedures for within-person causal inference without statistics when variables are too many, self-report is least reliable, control groups are impossible and no external reward exists (contralateral self-comparison, stopping rule, forward-only search, compensation-triggered debugging, deception-cost ordering, author-as-subject), the role of AI as a falsification device that lowers the cost of doubt, eight recorded rejections, and four cases in which theory predicted and data later agreed.
Five gaps found while writing. (1) Of the four "successful predictions", only one survives the series: arm swing driven by vertical oscillation failed by calculation (Part 14); the 4.8 km/h–Fr 0.25 match is loose and only the walk–run transition at Fr ≈ 0.5 holds (Part 11); the compensation–minimal-intervention match is inverted, since the minimal intervention principle treats task-achieving redundancy as optimal (Todorov & Jordan, 2002) and compensation is pursued for a different cost (long-term joint load); and "phase cannot be given from outside" was rewritten in Part 18. (2) Contralateral comparison assumes an unchanged control side, but unilateral stretching increases range of motion in non-stretched joints (Behm et al., 2021), biasing the estimate toward zero and adding "both sides changed" to reasons for "no difference". (3) Resistance to faking is not accuracy: the reliability formula omitted unintentional noise (light for pupils, temperature for skin colour), and nonverbal cues such as self-touch are weak indicators (DePaulo et al., 2003). (4) Three earlier corrections had not reached the method chapter (forward search "in parallel", the gate g, the stopping threshold). (5) The rejection record stopped at eight and its summary ("reasons fell, never claims") no longer holds, since several claims reversed direction in the series.
Registered predictions (P92–P96)
P92. Unilateral treatment widens range of motion on the untreated side relative to a no-treatment day, shrinking the apparent side difference.
P93. Pupil-based arousal agrees poorly with heart rate under uncontrolled lighting and better under matched lighting.
P94. Correcting task-achieving compensation leaves immediate task performance unchanged or slightly worse but reduces load complaints within weeks.
P95. Smaller ankle dorsiflexion predicts more knee valgus in squatting; increasing dorsiflexion reduces valgus without knee instructions.
P96. One-at-a-time interventions yield smaller immediate gains than simultaneous ones but higher next-session replication of the identified effective strategy.
Request
Refutations are welcome on any of the 96 registered predictions. Corrections will be issued as new versions, with earlier versions kept retrievable.
文献
| 項目 | 書誌 |
|---|---|
| 片側のストレッチと反対側 | Behm DG, Alizadeh S, Anvar SH, Drury B, Granacher U, Moran J (2021). Non-local acute passive stretching effects on range of motion in healthy adults: a systematic review with meta-analysis. Sports Medicine, 51(5), 945-959. DOI: 10.1007/s40279-020-01422-5 |
| うその手がかり | DePaulo BM, Lindsay JJ, Malone BE, Muhlenbruck L, Charlton K, Cooper H (2003). Cues to deception. Psychological Bulletin, 129(1), 74-118. DOI: 10.1037/0033-2909.129.1.74 |
| 非言語の漏洩 | Ekman P, Friesen WV (1969). Nonverbal leakage and clues to deception. Psychiatry, 32(1), 88-106. |
| 最小介入原理 | Todorov E, Jordan MI (2002). Optimal feedback control as a theory of motor coordination. Nature Neuroscience, 5(11), 1226-1235. |
この記事の作り方について
各節は、主張・観察・導出・照合・判定・予測の順で書いています。主張が先、文献が後です。第0.5章は11節で、関係の深い節をまとめて7つの節にしました。片側対照(0.5-2)は第5弾で、方法の全体は第2弾でも扱っています。
観察の引用は、講座の記録からの逐語です。日付が記録にないものは「日付未取得」と書いています。逐語は、AIによる抽出の後に「原典に無ければ逐語なしと書け」と問い直す2段階の確認を通しています。
文献のうち、Behm ら(2021)と DePaulo ら(2003)の書誌と要点、Todorov と Jordan の最小介入原理の内容(同じ著者らの2002年の学会論文の要旨による)は、記事の作成時に確かめました。Ekman と Friesen(1969)は書籍で名前が挙がっていたもので、巻と頁は原本では確かめていません。
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