順序は、規則ではなく比較の基準である

実装ロードマップ ― The Kuriyama Protocol 第12章

順序は、規則ではなく比較の基準である

実装ロードマップ ― The Kuriyama Protocol 第12章

栗山智光(一般社団法人 人間コンシェルジュ協会 理事長)
公開日:2026年11月2日
DOI:10.5281/zenodo.23874674
連絡先:contact@medi-gym-revital.com
第1弾「検証されていない8つの予測」:10.5281/zenodo.23587879
第2弾「棄却の記録」:10.5281/zenodo.23587670
第3弾「画一的なフォーム指導は、不適切なのではなく、実行不可能である」(第2版):10.5281/zenodo.23723510
第4弾「最適解は、信号ゼロとして現れる」:10.5281/zenodo.23609857
第5弾「対照群を作れない現場で、因果を取る」:10.5281/zenodo.23610607
第6弾「意識は、設定しか渡せない」(第1章):10.5281/zenodo.23682055
第7弾「足裏は、押すことしかできない」(第2章):10.5281/zenodo.23684537
第8弾「視覚は、自分を見るためにあるのではない」(第3章):10.5281/zenodo.23684996
第9弾「人体は、力で損をする設計になっている」(第4章):10.5281/zenodo.23685960
第10弾「動力源は、どこにあるのか」(第5章):10.5281/zenodo.23686289
第11弾「第6章を、もう一度検算する」(第6章):10.5281/zenodo.23720048
第12弾「呼吸は、体幹の剛さを切り替えるスイッチである」(第7章):10.5281/zenodo.23723725
第13弾「反射は、意識を待たない」(第8章):10.5281/zenodo.23834848
第14弾「制動が、推進を生む」(第9章):10.5281/zenodo.23854475
第15弾「指導は、指導者が要らなくなったときに終わる」(第10章):10.5281/zenodo.23854843
第16弾「構造を直しても、動きは書き換わらない」(第11章):10.5281/zenodo.23859894

書籍の章ごとに公開している、その12本目です。第12章は、ここまでの11章を順序に並べる章です。どこから入り、何から見て、どう直すか。

章の中心は、修正の順序についての1つの判断です。教材のスライドには「修正の順序は必ず1→4にする」と書いてあります。しかし現場では、改善しないときに順序を崩しています。書籍はこれを、既定の順序は守るべき規則ではなく、比較の基準である、と書きました。Step1から始めて改善しないという事実があって初めて、順序を崩すことに意味が生まれる、という考え方です。

この章は、書籍の中で最も現場の教材に近い章です。そのぶん、教材の表と、書籍の理論との対応を1つずつ確かめました。書籍の側に5つの穴が見つかりました。いちばん大きいのは、現在地を決める2つの軸のうち「動作の上手さ」の軸の測り方が、実際には「体重あたりの脚の力」を測っていたことです。9節にまとめています。

この記事の構成
  • 1 現在地を2つの軸で決める
  • 2 片脚立ち上がりは、上手さを測っているのか
  • 3 評価の順序は、式の評価順序である
  • 4 修正の順序と、順序を崩す手続き
  • 5 ステップの全体構成
  • 6 難易度は、いくつの変数で操作するのか
  • 7 疲労由来の変化と、代償運動を見分ける
  • 8 ロードマップの使い方
  • 9 この記事を書きながら見つけた5つの穴
  • 10 登録する予測(5件)
  • 11 反証を歓迎します
  • English summary/文献/作り方
INDEX

1 現在地を2つの軸で決める

主張

介入を始める前に、対象がどこにいるかを決めます。軸は2つで、筋の量と、動作の上手さです。2つは独立で、組み合わせでタイプが分かれ、タイプごとに入る場所が違います。2つの軸は装置がなくても測れ、上手さは椅子からの片脚立ち上がりで、筋の量は体脂肪率やBMIで代用できる、と書籍は書いています。

観察

[著者資料]ファンクショナルトレーニングの教科書「SPINE DYNAMICS(SD)理論とは」
「SD理論では、ニュートンの運動法則式である F=ma の公式に準じ、力(F)は体重支持指数(WBI)を測定し、筋肉量(m)は身体総蛋白質量(%MV)を用います。WBIは片脚立ち上がり動作の高さ、%MVは体脂肪率やBMIでも代用可能です。」

同じ教科書の表では、片脚で立ち上がれる台の高さが40センチで日常生活の安全な活動の閾値、30センチでレクリエーションのスポーツ、20センチで競技スポーツへの参加、10センチで競技スポーツの障害に対する安全の閾値とされています。

2026年8月、講座にて
「運動能力高い人は片足のまましゃがんで片足のまま立てます。足ひょろひょろの小学校一年生の女の子がこれできるんで筋力は関係ないです。」
「片足でできた時点で巧みさはOKです。巧みなんです。(中略)筋トレってしてる特にしてないよね。(中略)そうだからね、巧みなんです。筋力が強いわけじゃないです。押すのが上手いんですね。」
2026年8月、講座にて
「めちゃくちゃ筋トレやってる人でもこれできませんからね。筋骨隆々の人ほどできない動きって結構多いんです。特異性の原則だから。」

教材のスライドでは、4つのタイプが次のように整理されています。①上手い・細い(動きの改善)、②下手・弱い・虚弱(動きの改善と筋量の増加)、③下手・ガッチリ・硬い(柔軟性の改善)、④バランス良し(柔軟性の改善と筋量の増加)。

導出と判定

書籍は、2つの軸が独立であることを分類の要点とし、その根拠を講座の2つの発言に置いていました。筋力の弱い小学生ができ、筋骨隆々の人ができない。もし2つの軸が同じものを測っているなら、こうはならない、という論理です。対応づけは、筋の量が Π₂(相対筋力)、上手さが Π₆(位相の整合)と Π₄(可動域の充足)でした。次の2節で、この対応づけを確かめます。

2 片脚立ち上がりは、上手さを測っているのか

何を測るテストとして作られたか

書籍は、教科書の説明として「WBIは膝を伸ばす筋力を体重で割った値である」と書き、続けて「体重で割るという操作は、Π₂(相対筋力)と同じ正規化である」と書いていました。ここで矛盾が生じます。Π₂ は「筋の量」の軸に割り当てたはずでした。ところが「上手さ」の軸の測り方として採った片脚立ち上がりは、教科書でも、力(F)を測るための WBI の代用です。つまり上手さの軸を測る道具が、筋の量の軸に割り当てた Π₂ を測っています。

片脚立ち上がりを公的に使っている例も、同じ見方です。日本整形外科学会のロコモ度テストの「立ち上がりテスト」は、片脚で40センチ、両脚で10〜40センチの台から立ち上がれるかを見るもので、下肢の筋力を調べるテストとして説明されています(日本整形外科学会 ロコモ度テスト)。片脚で40センチから立てなければ「ロコモ度1」です。

小学生ができるのは、なぜか

講座の「足ひょろひょろの小学校一年生ができるから筋力は関係ない」は、書籍自身の正規化で読み直せます。小学1年生は、脚の筋力の絶対値は小さいですが、体重も小さいので、体重あたりの脚の力は大人と比べて小さくないことがあります。片脚立ち上がりが要求するのは、まさに体重あたりの力です。筋骨隆々の人ができない理由も、筋力以外に、体重の大きさ、足首の硬さ(しゃがむと後ろに倒れる)、片脚でのバランスと、複数ありえます。

したがって、講座の2つの例は「上手さが筋力と独立である」ことを示していません。示しているのは「筋力の絶対値では、片脚立ち上がりは決まらない」ことです。これは書籍の Π₂ の考え方(自分の体重に対する比で見る)と一致していて、むしろそちらの裏づけです。

力の不足と、上手さの不足を分ける

それでも、片脚立ち上がりができない人の中には、力が足りない人と、力は足りているのにバランスや協調が足りない人の両方がいるはずです。この2つは、指先の軽い接触で分けられます。壁や台に指先を「触れるだけ」(1ニュートン以下、体を支える力にはならない大きさ)にすると、立っているときの揺れが大きく減ることが知られています(Jeka & Lackner, 1994)。指先の接触は力ではなく、情報を足すからです。

同じ高さで、指先を軽く触れただけで立ち上がれる人は、力ではなくバランスや協調で止まっていた人です。触れても立ち上がれない人は、力で止まっていた人です。この1手間で、片脚立ち上がりの失敗を2つの軸に振り分けられます(予測77)。9節の穴1です。

BMI は筋の量の代わりにならない

もう1つの軸の測り方にも問題がありました。教科書は筋の量を「体脂肪率やBMIでも代用可能」としていて、書籍はそのまま採っていました。体脂肪率は、筋を含む脂肪以外の部分の割合と裏表の関係にあるので、ある程度の代わりになります。しかし BMI は身長と体重だけで決まる値で、筋で重いのか、脂肪で重いのかを区別しません。BMI が高いことは、筋が多いことも、脂肪が多いことも意味しえます。

装置なしで筋の量の見当をつける方法としては、ふくらはぎの周囲長が使われています。アジアのサルコペニアの診断基準では、筋の量が少ない人を拾い上げる目安として、男性34センチ未満、女性33センチ未満が示されています(Chen ら, 2020)。メジャー1本で測れます。9節の穴2です。

判定

修正。2つの軸の名前と測り方を、次のように改めます。

  • 軸A「体重あたりの、脚で押す能力」:片脚立ち上がりの高さ(教科書の WBI の代用、Π₂ に対応)
  • 軸B「筋の量」:体脂肪率、またはふくらはぎの周囲長(BMI は単独では使わない)
  • 片脚立ち上がりができない人には、指先の軽い接触で、力の不足とバランス・協調の不足を分ける

教材の4タイプにある「硬い」は、2つの軸のどちらでもない第3の属性(Π₄、可動域)です。タイプ分けは、実際には3つの属性で行われていることも明記します。

3 評価の順序は、式の評価順序である

主張

何から見るかは決まっている、と書籍は書きます。順序は、情報の門 → 構造の門 → 出力 → 効率 → 持続 → 更新。第6章で作った式の評価順序と同じで、書籍の目次の順序でもあります。

観察

[著者資料]『ファンクショナルトレーニング・ロードマップ』「姿勢と呼吸」
「呼吸機能と姿勢機能をつかさどる筋群はほぼ同一」 「動作全般的にまずは呼吸機能の向上を優先する必要がある。」

導出

情報が通っていなければ、どの介入も定着しない(第8弾、第13弾)。可動域が足りなければ、不足分が隣の関節へ回る(第9弾、第11弾)。出力、効率、持続はその後で、最後に、制御則が今の身体に合っているかを見ます(第16弾)。書籍は、教材の「まず呼吸機能の向上を優先する」を、この順序の最初の段にあたると読んでいました。

ところが、次の4節の修正の順序は、呼吸から始まっていません。Step1は荷重(ウェイトシフト)、Step2は体幹(骨盤、頭、胸椎)で、呼吸と腹腔内圧に関わる「強固な体幹」はStep5です。「まず呼吸」と「Step1は荷重」が、同じ章の中で並んでいました。

2つは、役割を分ければ両立します。呼吸は、評価の順序の最初の段(情報の門と構造の門)で確かめるものです。たとえば、立ったまま体重を左右に移すときに、息を止めずに、お腹を固めずにできるか。できない人は、門が閉じているので、修正の順序に入る前に呼吸を扱います。できる人は、Step1の荷重から始めます。呼吸は修正の1番目ではなく、修正を始めてよいかの確認である、と書けば矛盾は消えます。9節の穴3です。

判定

修正して採用。「まず呼吸」を、修正の順序の手前にある確認として書き、その確認の手順を加えます(予測79)。

4 修正の順序と、順序を崩す手続き

主張

動作の修正には既定の順序があります。荷重、体幹、下肢、運動連鎖の同調。ただしこれは規則ではなく既定値で、既定の順序で進めて改善が見られなければ順序を崩し、崩した結果から、ボトルネックがどこにあったかを判定します。

観察

[著者資料]『ファンクショナルトレーニング・ロードマップ』「戦術の構築」
「*修正の順序は必ず1→4にする」
著者の口述(2026年9月)
既定の順序で進めて改善が見られない場合の手続きについて。ステップ1から始めて一向に改善が見られない場合、順序を崩し、ボトルネックになっていると思われるステップの修正に着手する。その後ステップ1に戻ったときに、修正がスムーズに進むようになれば、そこがボトルネックだったと判定できる。
日付未取得、講座にて
「重要なものほど下になります。優先順位を下が先です。足元からってことです。これ崩れている人その上全部ダメです。(中略)下ほど重要です。」

導出

荷重が最初に来るのは、どこに体重が乗っているかがその上のすべての配置を決めるからです(第9弾)。ここが決まらないまま上を直せば、上は下の崩れを打ち消す配置を作り、下が変われば、また崩れます。

順序を崩す手続きは、5段で書けます。既定の順序で進める。改善しなければ、ボトルネックと思われるステップへ飛ぶ。そこを直す。Step1に戻る。今度はスムーズに進めば、飛んだ先がボトルネックだったと判定する。書籍は、これを第0.5章の順問題探索そのものだとし、既定の順序は比較の基準として働いている、と書きました。この考え方は、この記事の題にした、章の中で最も大事な判断です。

ただし、5段目の判定には、別の説明が2つ入り込みます。

1つ目は、練習と時間です。Step1に戻ったとき、その人はStep1をすでに何回か経験しています。飛んだ先で何をしたかに関係なく、2回目の方がスムーズに進むことはありえます。

2つ目は、平均への回帰です。順序を崩すのは、「一向に改善が見られない」人に限られます。改善の度合いには、日によるばらつきがあります。たまたま調子の悪い時期に「改善しない」と判定された人は、次は何もしなくても、平均に戻る方向に動きやすくなります。

次回の予想値 = 平均 + r ×(今回の値 − 平均)  (r は、今回と次回の値の相関、0〜1) 意味:今回の値が平均より大きく外れていても、次回は平均の方へ戻ると予想されます。戻り方は、今回と次回の値がどれだけ強く関係しているか(r)で決まります。r が1なら戻らず、0なら完全に平均に戻ります。人の動作の改善の度合いは日によって揺れるので、r は1より小さく、「改善しない人」として選ばれた人は、何もしなくても次回は少し良くなる方向に予想されます。順序を崩した後に良くなったことの一部は、この戻りかもしれません。

どちらの説明も、書籍が自分で用意した道具で取り除けます。片側対照です。ボトルネックと思われるステップの修正を、片側の脚にだけ行い、その後、両側でStep1に戻ります。練習の効果と平均への回帰は、左右に同じだけ働きます。修正した側だけがスムーズに進めば、それはボトルネックを直した効果です。第5弾で書いた、対照群を作れない現場で因果を取る方法そのものです。9節の穴4です。

照合と判定

土台から順に修正する設計は、運動療法で広く使われています。スライドに付いている「順序を守るべき理由」の文は、出典が特定できないため、書籍でも引用していません。採用。ただし、順序を崩した後の判定に片側対照を組み込みます(予測80)。書籍の予測(3回改善しなかった人は、順序を崩した後の進行が速くなる)は、平均への回帰だけでも成り立ってしまうので、片側対照の形に書き直します。

5 ステップの全体構成

実装は、基礎理念(Step0)から回復(Step14)までの段で構成されます。前半は姿勢と歩行、後半はパワーとスピード、最後に回復です。

[著者資料]『ファンクショナルトレーニング・ロードマップ』の目次:Step0 基礎理念、Step1 体重移動、Step2-a 骨盤の傾き、2-b 頭の位置、2-c 胸椎の反り、Step3-a 膝の向き、3-b 足部の機能、Step4 運動連鎖の同調、Step5 強固な体幹、Step6 人間の身体動作、Step7 移動運動、Step8 パワーとプライオメトリクス、Step9 スピード、Step10 多方向のスピード、Step11 回旋動作、Step12 機能的な筋力トレーニング、Step13 機能的な可動域・全身、Step14 回復。

書籍の章と対応させると、第3章(視覚と注意)に対応するステップがありません。書籍は、これを欠落ではなく層の違いだとしています。Step0から14は動作の実装の順序で、第3章が扱うのは、その実装を成立させる情報の門です。ステップ全体が「構造の門以降」にあり、情報の門はその手前にあります。この整理は、3節の呼吸の扱い(修正の手前の確認)とも一致します。採用。

6 難易度は、いくつの変数で操作するのか

主張

同じ種目でも、難易度は連続的に動かせます。書籍は、動かす変数が7つあり、7つは独立で、それぞれを別々に動かせる、と書いていました。第6章で運動を7つの無次元群に分けたのと同じ構造だ、という対応づけです。

観察

[著者資料]『ファンクショナルトレーニング・ロードマップ』「エクササイズの難易度の漸進」の表:運動面(矢状面 → 前額面 → 水平面 → 組み合わせ)、体の肢位(背臥 → 腹臥 → 横臥 → 座位 → 膝立ち → 立位)、体を支える土台(床 → 細長い板 → フォームローラー → 柔らかいマット → 半球のバランス器具 → バランスボール)、下肢のポジション(両脚 → 交互 → 片側 → 不安定)、上肢のポジション、ウェイトの形状(バーベル → ケトルベル → ダンベル → ケーブル → チューブ → メディシンボール)、バランスギア(半円のフォームローラー → バランスディスク → 空気の入ったディスク)。

[著者資料]『ファンクショナルトレーニング・ロードマップ』「支持基底面」
「面積が広ければ広いほど、安定性が高い」 「安定性が高いほど、可動性は低い」

導出

「1つの難易度の尺度ではなく、複数の軸で指定する」という考え方は正しく、書籍の他の章と一致します。ただし、表の7つは独立ではありません。「体を支える土台」「バランスギア」「下肢のポジション」の3つは、どれも、支持基底面(体を支えている面)の大きさと固さを変える操作です。床からバランスボールへ、両脚から片脚へ、フォームローラーからバランスディスクへ。動かしているのは、同じ1つの量です。「体の肢位」も、寝た姿勢から立った姿勢へ変えることで、重心の高さと支持基底面を同時に変えています。

整理し直すと、独立に近い軸は4つです。

  • 支持基底面の大きさと固さ(土台、バランスギア、下肢のポジション)
  • 重心の高さ(体の肢位)
  • 運動の面(矢状面、前額面、水平面、組み合わせ)
  • 負荷の安定性と位置(ウェイトの形状、上肢のポジション)

7つを独立と数えると、たとえば「土台を1段上げて、バランスギアを1段下げる」が、2つの変数を動かした操作に見えます。実際には同じ量を上げて下げただけで、難易度はほとんど変わっていないかもしれません。第6章の7つの無次元群は、互いに独立になるように作ったものでした。表の7つは、そうして作られたものではありません。9節の穴5です。

判定

修正。「7つの独立な変数」を「表の7項目は、独立に近い4つの軸にまとまる」に改め、第6章の7群との対応づけは取り下げます(予測81)。

7 疲労由来の変化と、代償運動を見分ける

主張

動作が崩れたとき、可動域や制御の不足による代償と、資源の減少による最適化の2つの可能性があります。直すべきかどうかが正反対です。

観察

2026年8月、講座にて
「お疲れ様。ちょっと動きが鈍ってきたんでおしまいにしましょうか。」
著者の口述(書籍のための聞き取り、2026年10月)
「臀部のトレーニングをオールアウトするまで行った。その後、普段の歩行パターンにはない、臀筋歩行特有の姿勢が見受けられた。筋疲労が解消されると、元の運動パターンにもどっていた。筋出力が出なくなった際に発現した運動は疲労。そのエクササイズを行う前から出ていたエラーパターンは代償として判断する。セッション開始前から顧客の動きはチェックをしている。」

導出と判定

代償は可動域の不足の帰結で、直すべきはボトルネックの関節です。疲労由来の変化は、その時点で実行できる最小の構成で、直すべきエラーではありません(第11弾)。見分ける手がかりは、いつ出たか(初めからなら代償、後半なら疲労)と、休むと消えるか(消えれば疲労)です。口述の基準は、この2つと一致します。

1つ補足があります。疲労由来の変化は「直すべきエラーではない」としても、そのまま続けてよいということではありません。疲れたときの動作は、関節に普段と違う負担をかけることがあります。講座の「動きが鈍ってきたんでおしまいにしましょうか」は、直そうとせずに、その場で終えています。疲労への正しい対応は「修正」ではなく「終了か休息」だ、と書く方が、現場の判断を正確に表します。採用(条件付き)。

8 ロードマップの使い方

ステップは、全員が最初から通る階段ではありません。3つの順序が、別々のことを決めています。

  • どこから入るか:2つの軸(と可動域)で決める。人によって違う
  • 何から見るか:評価の順序。全員共通。呼吸の確認はここに入る
  • どう直すか:修正の順序。既定値で、崩すことがある。崩した後は片側対照で判定する
日付未取得、講座にて
「今マイナスの人とプラマイゼロの人とプラスの人とって3段階に分けてますけれども、よくわかっているプロの方々はこれもっと細かく10段階以上でその人を感じます。」

同じ順序を全員に同じ地点から始めさせることは、第3弾で書いた意味で、実行不可能な設計です。終了は第15弾で書いたとおり、本人が自分で異常に気づき、自分の法則で対処できるようになったときです。採用。

9 この記事を書きながら見つけた5つの穴

穴1 「上手さ」の軸の測り方が、体重あたりの脚の力を測っていた

片脚立ち上がりは、教科書では力(WBI)の代用で、ロコモ度テストでも下肢筋力のテストです。書籍自身も「体重で割るのは Π₂ と同じ」と書いていて、筋の量の軸に割り当てた Π₂ を、上手さの軸で測っていました。講座の「小学1年生ができるから筋力は関係ない」は、体重あたりの力で読めば説明がつき、上手さが独立である証拠にはなりません。指先の軽い接触で、力の不足とバランスの不足を分ける手順を加えました。

穴2 BMI は筋の量の代わりにならない

BMI は、筋で重いのか脂肪で重いのかを区別しません。装置なしの代わりとしては、体脂肪率か、ふくらはぎの周囲長(男性34センチ未満、女性33センチ未満が筋の量の少ない人を拾う目安)を使います。

穴3 「まず呼吸」と「Step1は荷重」が並んでいた

評価の順序では呼吸を最初の段に置き、修正の順序は荷重から始まっていました。呼吸を、修正の1番目ではなく、修正を始めてよいかの確認として書けば両立します。

穴4 順序を崩した後の「スムーズになった」には、練習と平均への回帰が混ざる

Step1に戻ったときの改善は、2回目であることと、「改善しない人」として選ばれたことだけでも起こりえます。ボトルネックの修正を片側にだけ行い、両側でStep1に戻れば、2つの影響を左右で打ち消せます。書籍の予測も、この形に書き直しました。

穴5 難易度の7変数は独立ではなかった

土台、バランスギア、下肢のポジションは、どれも支持基底面を変える操作で、同じ量を動かしています。独立に近い軸は4つです。第6章の7つの無次元群との対応づけは取り下げました。

5つの穴は、どれも章の骨組みを崩すものではありません。2つの軸で入る場所を決める、評価には共通の順序がある、修正の順序は比較の基準である、難易度は複数の軸で指定する。どれも残っています。直したのは、軸の名前と測り方、順序どうしの役割の分担、そして判定の手続きです。そして穴4の直し方が示すとおり、書籍がこれまでの章で用意した道具(片側対照)が、この章の手続きを支えるのに、そのまま使えました。

10 登録する予測(5件)

第1弾から第16弾までで、76件の予測を登録しました。この記事から5件を追加します。番号は77から続けます。いずれも、この記事の公開日(2026年11月2日)に登録したものとします。

予測77 片脚立ち上がりができない人のうち、指先の軽い接触で立てる人はバランスの練習で、立てない人は脚の筋力の練習で、より早く立てるようになる

前提:片脚立ち上がりの失敗には、力の不足と、バランス・協調の不足の2種類がある(穴1)。

測定方法:ある高さで片脚で立ち上がれない人に、同じ高さで、壁に指先を触れるだけ(体を支えない程度。可能なら台ばかりで1ニュートン以下を確かめる)の条件を試してもらいます。立てた人と立てなかった人を、それぞれ半分ずつ、片脚でのバランスの練習と、脚の筋力の練習に割り振り、4週間後に指先の接触なしで立てる高さを測ります。

予測:指先の接触で立てた人はバランスの練習で、立てなかった人は筋力の練習で、立てる高さがより大きく下がる(練習の種類と、指先の接触の結果の交互作用)。

理論が分岐する点:片脚立ち上がりが体重あたりの脚の力だけで決まるなら、指先の接触は結果を変えず、どの人にも筋力の練習が効きます。上手さだけで決まるなら、どの人にもバランスの練習が効きます。

外れた場合に何が壊れるか:交互作用が出なければ、指先の接触による振り分けは役に立たず、片脚立ち上がりを2つの軸に分ける手順は取り下げます。

予測78 筋の量の見当として、ふくらはぎの周囲長は BMI よりも、体組成計で測った筋の量とよく一致する。BMI が高い人ほど、BMI による判定の外れが大きい

前提:BMI は筋と脂肪を区別しない(穴2)。

測定方法:講座の受講者で、体組成計(生体電気インピーダンス法)による筋の量、BMI、ふくらはぎの周囲長を測ります。筋の量の多い・少ないの判定が、BMI とふくらはぎの周囲長でそれぞれどれだけ一致するかを比べます。

予測:ふくらはぎの周囲長の方が、筋の量とよく一致する。BMI が高い人では、BMI で「筋が多い」と判定された人の中に、筋の量が少ない人が多く含まれる。

理論が分岐する点:受講者の体重の差が主に筋の差なら、BMI でも十分に一致します。

外れた場合に何が壊れるか:この受講者の層では BMI でも代わりになることになり、教科書の「BMI でも代用可能」は、少なくとも講座の対象では成り立ちます。

予測79 立ったまま体重を左右に移すときに息を止めたりお腹を固めたりする人は、呼吸を先に扱ってからStep1に入った方が、Step1から直接入るより、荷重の修正が早く進む。息を止めない人では、この差は出ない

前提:呼吸は修正の1番目ではなく、修正を始めてよいかの確認である(穴3)。

測定方法:最初の評価で、ゆっくり体重を左右に移してもらい、息を止める、お腹を固めるなどが出るかを記録します。出る人と出ない人をそれぞれ半分ずつ、呼吸を1回扱ってからStep1に入る群と、Step1から入る群に分け、荷重の修正(左右の荷重差、足の中央への重心の位置)が目標に達するまでのセッション数を比べます。

予測:息を止める人では、呼吸を先に扱った群の方が早く達する。息を止めない人では、2群に差が出ない。

理論が分岐する点:呼吸を全員の修正の1番目に置くべきなら(「まず呼吸」の文字どおりの読み方)、息を止めない人でも呼吸を先に扱った方が早くなります。呼吸が修正の進みに関係しないなら、どちらの人でも差は出ません。

外れた場合に何が壊れるか:穴3の「確認としての呼吸」という整理が崩れ、呼吸を修正の順序のどこに置くかを、改めて決め直すことになります。

予測80 既定の順序で改善しなかった人に、ボトルネックと思われるステップの修正を片側の脚にだけ行うと、その後のStep1は修正した側の方が早く進む。左右とも同じだけ早くなるなら、それは練習と平均への回帰である

前提:順序を崩した後の改善には、ボトルネックの修正の効果と、練習・平均への回帰の両方が含まれうる(穴4)。

測定方法:既定の順序で3回のセッションを行っても荷重の修正が進まなかった人に、ボトルネックと思われるステップ(たとえば足首の可動域)の修正を、片側の脚にだけ行います。その後、両側でStep1に戻り、左右それぞれの荷重の修正の進み方を、条件を知らない評価者が記録します。

予測:修正した側の方が、Step1の進みが早い。修正しなかった側も、修正前よりは少し早くなる(練習と平均への回帰の分)。

理論が分岐する点:順序を崩した後の改善が練習と平均への回帰だけなら、左右の進みは同じになります。

外れた場合に何が壊れるか:左右に差が出なければ、「飛んだ先がボトルネックだった」という判定は、少なくともその人については根拠を持ちません。順序を崩す手続きは、判定の道具としては働いていないことになります。

予測81 難易度の表の7項目を1段ずつ変えたときの、立っているときの揺れの増え方は、支持基底面の大きさと固さでほぼまとまる。運動の面を変えたときの変化は、そこにまとまらない

前提:土台、バランスギア、下肢のポジションは、同じ量(支持基底面)を変えている(穴5)。

測定方法:同じ種目(たとえば片手でのダンベルの挙上)を、表の各項目を1段ずつ変えて行ってもらい、足元の圧力の中心の揺れを、スマートフォンの加速度計や簡易な重心動揺計で測ります。各条件の支持基底面の面積と、土台の柔らかさを記録します。

予測:土台、バランスギア、下肢のポジションを変えた条件の揺れは、支持基底面の面積と柔らかさの1つの関係にほぼ乗る。運動の面を変えた条件は、その関係から外れる。

理論が分岐する点:表の7項目が本当に独立なら、土台、バランスギア、下肢のポジションの効果は、支持基底面では説明しきれず、それぞれ別の効果を持ちます。

外れた場合に何が壊れるか:穴5の整理(4つの軸)は崩れ、書籍の元の「7つの独立な変数」の方が正しかったことになります。

11 反証を歓迎します

この章は、私が使ってきた教材を、書籍の理論の中に置き直す章です。教材のスライドの多くは、私自身が作り、何年も講座で使ってきたものです。それを理論の側から確かめると、軸の名前と測り方が合っていないところや、表の項目が独立でないところが見つかりました。教材の手順そのものは、現場で役に立ってきたものです。直したのは、その手順を説明する言葉と、手順の結果の読み方です。

特に穴1は、講座で毎回のように使っている「筋力は関係ない、上手さだ」という説明に関わります。予測77の結果によっては、講座の説明の仕方を変えます。

私は研究の作法を正式に学んだ人間ではありません。24年間、現場で観察と試行を続けてきただけです。誤りがあれば、新しいバージョンで直します。訂正前の版も、参照できる形で残します。

連絡先:contact@medi-gym-revital.com
引用:栗山智光(2026)「順序は、規則ではなく比較の基準である ― 実装ロードマップ」The Kuriyama Protocol 記事第17弾(第12章). DOI: 10.5281/zenodo.23874674

English summary

The Order Is a Baseline for Comparison, Not a Rule: An Implementation Roadmap (The Kuriyama Protocol, Chapter 12)

Chiaki Kuriyama, Human Concierge Association (Japan)
Published 2026-11-02 · DOI: 10.5281/zenodo.23874674 · Contact: contact@medi-gym-revital.com
Part 17 of a series; the twelfth of fifteen chapter-by-chapter articles. Parts 1–16: 10.5281/zenodo.23587879 · 23587670 · 23723510 (Part 3 v2) · 23609857 · 23610607 · 23682055 · 23684537 · 23684996 · 23685960 · 23686289 · 23720048 · 23723725 · 23834848 · 23854475 · 23854843 · 23859894

Abstract

Chapter 12 orders the preceding chapters into practice: where to enter (a two-axis classification), what to assess (a common sequence: information gate, structural gate, output, efficiency, endurance, update), and how to correct (a default sequence: weight shift, trunk, lower limb, kinetic linking). The central judgment is that the default correction order is not a rule but a baseline for comparison: only after progress stalls from Step 1 does breaking the order become informative about the bottleneck. A 15-step implementation structure, multi-axis difficulty progression and the distinction between fatigue-related change (end or rest) and compensation (correct the bottleneck) complete the roadmap.

Five gaps found while writing. (1) The "skill" axis was measured by the single-leg sit-to-stand, which the source textbook uses as a proxy for body-weight-normalized knee extensor strength and which the Japanese Orthopaedic Association's locomotive syndrome test describes as a lower-limb strength test; the book itself equated it with relative strength Π₂, the parameter it had assigned to the other axis. A first-grader's success reflects relative, not absolute, strength. Light fingertip touch (<1 N; Jeka & Lackner, 1994) is added to separate strength-limited from balance-limited failure. (2) BMI cannot proxy muscle mass; body fat percentage or calf circumference (<34 cm men, <33 cm women; Chen et al., 2020) replaces it. (3) "Breathing first" in the assessment order conflicted with weight shift as Step 1 of correction; breathing is recast as a pre-correction check. (4) Faster progress after breaking the order is confounded by practice and regression to the mean in clients selected for stalling; applying the bottleneck correction to one leg only and returning to Step 1 bilaterally removes both. (5) The seven difficulty variables are not independent: surface, balance gear and stance all change the base of support; they reduce to about four axes, and the analogy with the seven dimensionless groups is withdrawn.

Registered predictions (P77–P81)

P77. Among clients failing a single-leg rise, those who succeed with light fingertip touch improve more with balance training, and those who do not, with strength training.

P78. Calf circumference agrees with bioimpedance muscle mass better than BMI; BMI misclassification grows with BMI.

P79. Clients who hold their breath or brace during slow weight shifting progress faster in weight-shift correction if breathing is addressed first; non-bracers show no difference.

P80. After a unilateral bottleneck correction in stalled clients, Step 1 progresses faster on the corrected side; equal bilateral gains indicate practice and regression to the mean.

P81. Postural sway changes across surface, balance-gear and stance manipulations collapse onto base-of-support area and compliance; plane-of-motion changes do not.

Request

Refutations are welcome, particularly on P77 and on the use of single-leg sit-to-stand as a field measure. Corrections will be issued as new versions, with earlier versions kept retrievable.

文献

項目書誌
筋の量の目安(ふくらはぎ)Chen LK, Woo J, Assantachai P, ほか (2020). Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 consensus update on sarcopenia diagnosis and treatment. Journal of the American Medical Directors Association, 21(3), 300-307.e2. DOI: 10.1016/j.jamda.2019.12.012
指先の軽い接触Jeka JJ, Lackner JR (1994). Fingertip contact influences human postural control. Experimental Brain Research, 100(3), 495-502.
WBIと脊柱の可動域九藤博弥ほか (2011). 健常人と慢性疼痛患者における脊柱弯曲可動域の比較 WBI境界値を基準とした検討. 第46回全国理学療法士学術大会(教科書に記載の表記による。正式名は日本理学療法学術大会と考えられ、原本で確かめる必要がある).
立ち上がりテスト日本整形外科学会. ロコモ度テスト(立ち上がりテスト、2ステップテスト、ロコモ25). 公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」の解説による.
SD理論の測定法と基準表ファンクショナルトレーニングの教科書「SPINE DYNAMICS(SD)理論とは」(著者保有の市販教科書).

この記事の作り方について

各節は、主張・観察・導出・照合・判定・予測の順で書いています。主張が先、文献が後です。第12章は7節で、12-1の測り方の検討を2節として分けました。

観察のうち、教材のスライドの表と箇条書きは、図や表にある情報だけを使い、AIが図をもとに文章化した説明の文は引用していません。講座の記録からの逐語は、AIによる抽出の後に「原典に無ければ逐語なしと書け」と問い直す2段階の確認を通しています。日付が記録にないものは「日付未取得」と書いています。

文献のうち、ロコモ度テストの内容と目的、Chen ら(2020)の書誌とふくらはぎの周囲長の目安は、記事の作成時に確かめました。Jeka と Lackner(1994)は記事の作成時に追加した標準的な文献で、巻と頁は原本では確かめていません。九藤ほか(2011)は教科書に記載された出典表記によるもので、原本は確認していません(書籍では学会名を「全国理学療法士学術大会」と記していますが、2011年の第46回の正式名は日本理学療法学術大会と考えられ、原本で確かめる必要があります)。

ライセンス:CC BY 4.0。出典を示していただければ、自由に使っていただけます。

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