「筋トレを指導する」だけのトレーナーと「動作を指導するトレーナー」の違い

「ただ筋肉を鍛える人」で終わるか、「一生動ける体」を手に入れるか。

この違いは、あなたが教わっているトレーナーが「筋肉」を見ているのか、それとも「動作」を見ているのか、という一点に集約されます。

この記事では、世界中のスポーツ科学や理学療法の知見を統合し、初心者の方でもはっきりとその違いが理解できるよう、詳しく解説していきます。


INDEX

1. 「筋肉を指導する」とはどういうことか?

一般的にイメージされる「筋トレの指導」の多くはこちらに分類されます。専門用語では「アイソレーション(単関節運動)」や「ボディビルディング的アプローチ」に近い考え方です。

ターゲットはあくまで「個別の筋肉」

筋肉を指導するトレーナーの頭の中には、解剖図が広がっています。「今日は大胸筋を鍛えましょう」「次は上腕二頭筋です」といった具合に、体をパーツごとに切り分けて考えます。

  • メリット: 特定の部位を太くする、形を整える(ボディメイク)には非常に効率的です。
  • デメリット: 筋肉はついたけれど、いざスポーツをしたり重い荷物を持ったりすると、うまく力が伝わらない「使えない筋肉」になりやすい傾向があります。

ボディメイク = 体型の見栄えを筋肉の増量によって変える

「効く?効かない?」、「いかに効かせるか?」筋肉への効きばかりに目が行っている気がします。効かせられることは確かに大切ですがそこだけではないんです。SNSなどで、〇〇に効く!などの表記を頻繁に目にしますが、その目線だけで運動を捉えると体は良くなりません。

【ちょっと一息】これって、オーケストラの練習に似てるんです

「ねえ、想像してみて。あなたはオーケストラの指揮者だとしましょう。筋肉を指導するっていうのは、バイオリン奏者だけを個室に呼んで『もっと大きな音を出して!』、トランペット奏者だけを呼んで『もっと速く吹いて!』って特訓するようなもの。

もちろん、個々の技術は上がるよね。でも、いざ全員でステージに立ったとき、みんなが自分勝手に大きな音を出したらどうかな? おそらく、美しい音楽にはならないはず。体も同じで、筋肉だけをバラバラに鍛えても、それをつなげる『指揮者(脳と神経)』が不在だと、ちぐはぐな動きになっちゃうんだよね。」


クリ先生

私は個別の筋を育てるトレーニングができた上で、動作を鍛えるトレーニングもできた方が良いと考えています!

リバ子

どちらが良い?悪い?の話ではないのね!

リバ子

私たちが何を「願うか?」が、大事な気がするわ

2. 「動作を指導する」トレーナーの視点

一方で、世界トップクラスのアスリートや、最新のリハビリ現場で主流となっているのが「動作(ムーブメント)」へのアプローチです。

脳は「筋肉」ではなく「動き」を記憶する

私たちの脳は、筋肉一つひとつに指令を送っているわけではありません。「椅子から立ち上がる」「物を拾う」「走る」といった一連のパッケージ化された動作として記憶しています。動作を指導するトレーナーは、この「パッケージの質」を向上させようとします。

動作効率の向上 = 楽に動けるような動きの獲得

クリ先生

ひたすら負荷をかけ続けることや、筋肉にいかに効かせるかは度外視しています

運動連鎖(キネティック・チェーン)の最適化

「動作」を教える際、トレーナーは足裏の感覚から膝、股関節、体幹、そして指先へと力がどう伝わっているか(運動連鎖)を観察します。

  • スクワットの例:
    • 筋肉指導: 「大腿四頭筋(太もも)に効かせましょう」
    • 動作指導: 「地面を足裏全体で押し、股関節を正しく連動させて、重力を効率よく活用しましょう」
リバ子

アスリートが行うトレーニングと、リハビリで行うトレーニングは一緒なのね!!

クリ先生

我々の発信は主にこの「動作トレーニング」の目線で行なっています。多くの人々がどちらのトレーニングに対しても知見が広がると良いなと思い発信を続けています


3. なぜ「動作」を学ぶと人生が変わるのか

「筋肉」ではなく「動作」を学ぶことには、単なる見た目以上の劇的なメリットがあります。

① 怪我のリスクが激減する

多くの怪我は、特定の関節に負担が集中することで起こります。動作が整うと、衝撃を全身に分散できるようになります。腰痛や膝痛の多くは、その部位自体が悪いのではなく、股関節や胸郭の「動作」が悪いことによる「とばっちり」なのです。

とばっちりがなくなる = 腰痛、膝痛が減る

② パフォーマンスの「天井」がなくなる

筋肉の肥大には限界がありますが、動作の効率化には限界がありません。効率的な動きを身につければ、より少ない力で、より大きなパワーを出せるようになります。

筋肉が増えていなくてもパワフルになる

③ 日常生活が軽くなる

階段を上る、子供を抱き上げる、長時間歩く。これらすべては「動作」です。トレーニングジムの中だけで完結せず、24時間の質を底上げするのが動作指導の真髄です。

効率的になる = 疲れにくくなる


リバ子

私の年齢だと筋肉が増えてスタイルが良く見えることよりも、生活の質が上がる方が大事だわ

クリ先生

え?リバこさん、いくつなんですか?

リバ子

私に歳を聞かないでくれる!!

4. 良いトレーナーを見極める「魔法の質問」

あなたが今受けている指導がどちらなのか、あるいはこれから探す際に、どう判断すればいいのでしょうか。

【現場のリアル】こんな言葉が出てきたら、その人は「動作」のプロ

「もしトレーナーさんに、『この種目はどこに効くんですか?』って聞いてみて。

そのときに『太ももの前側ですよ』だけで終わるなら、それは筋肉の指導。

もし、『この動きは、あなたの歩く時のフラつきを抑えるために、お尻と体幹を連動させる練習ですよ』とか、『背骨の動きを出すことで、肩の痛みを根本から消すための準備です』なんて答えが返ってきたら……その人は、あなたの『人生の質』を見ている動作のプロ。

筋肉は、正しい動きをした結果として、勝手についてくる『おまけ』みたいなもの。そう言い切れるトレーナーに出会えたら、めちゃくちゃラッキーだよ!」


リバ子

筋トレっていう狭い目線だけではなく、わたしの体ぜんたいを見てくれる目線のトレーナーさんにお願いしたいわ!

5. まとめ:あなたはどちらの道を選びますか?

「筋肉を指導するトレーナー」も、ボディメイクの初期段階や、筋肉を大きくしたいという目的においては素晴らしいパートナーです。しかし、もしあなたが、

  • 「一生、痛みなく動ける体でいたい」
  • 「スポーツで最高のパフォーマンスを出したい」
  • 「機能的でしなやかな、美しい身のこなしを手に入れたい」

そう願うのであれば、選ぶべきは「動作を指導できるトレーナー」です。

体は、あなたが一生付き合っていく唯一の「乗り物」です。エンジン(筋肉)の馬力を上げるだけでなく、ハンドル操作やサスペンション(動作)を整えること。その視点を持つことが、真に価値のあるトレーニングへの第一歩となります。


「あなたの今の体の状態が『動作』として正しく動けているのか、知りたい」と思われましたか? 動作の質をセルフチェックできる「3つの基本テスト」を行なってみませんか?

【実践編】あなたの体は「動ける」状態か? 3つの基本動作テスト

知識として「動作の大切さ」を理解したら、次は自分の体がどうなっているかを知る番です。ここで紹介するのは、世界中のトップトレーナーが動作評価(スクリーニング)の基準にしている動きを、誰でもできるように簡略化したものです。

鏡の前で、あるいはスマホで動画を撮りながら試してみてくださいね。


1. オーバーヘッド・ディープスクワット(連動性のチェック)

「スクワットなんて知ってるよ」と思うかもしれませんが、これは筋トレではなく「全身の通信状態」を確認するテストです。

  • やり方:
    1. 両足を肩幅に開き、つま先をまっすぐ前に向けます。
    2. 両手でタオルや棒を持ち、万歳をするように頭の上に掲げます。
    3. そのまま、腕が前に倒れないようにキープしたまま、深くしゃがみ込みます。

【ここがチェックポイント!】

「どうかな? しゃがんだ瞬間に、腕がガクンと前に倒れたり、かかとが浮いちゃったりしてない?

もし腕が倒れるなら、それは胸の筋肉が硬すぎるか、背中の筋肉がサボっている証拠。後にひっくり返りそうになるなら、足首の柔軟性が足りないサイン。 このテストで大事なのは『太ももの筋力』じゃないんだ。足首から背中、そして腕まで、全身の関節がバトンリレーのように正しく動けているかを見てるんだよ。これができないまま重いバーベルを担ぐのは、ブレーキが壊れた車で高速道路を走るようなもの。まずはこの『連動』を取り戻すことが先決なんだ。」

クリ先生

私の著書「健康長寿スクワット」はこの動作を書いた書籍です!


2. インライン・ランジ(安定性とバランスのチェック)

人間が「歩く」「走る」という動作は、常に片足になる瞬間の連続です。このテストでは、左右のバランス能力と、体幹の安定性を見ます。

  • やり方:
    1. 床に引いてあるライン(または想像上の直線)の上に、両足を前後に並べて立ちます(綱渡りのような状態)。
    2. 後ろの足の膝が、前の足のかかとのすぐ後ろの床に触れるまで、ゆっくり深く沈み込みます。
    3. 上半身をまっすぐ保ったまま、ふらつかずに元の位置に戻ります。

【ここがチェックポイント!】

「おっとっと!って横に倒れそうにならなかった?

筋肉指導の視点だと『脚の筋力を鍛えましょう』ってなるんだけど、動作指導の視点は違う。ふらつくのは、脳が『自分の重心が今どこにあるか』を正確にキャッチできていないから。 つまり、お尻の奥にある小さな筋肉や、お腹のインナーマッスルが、必要な瞬間に『スイッチオン』になっていないんだよね。ここを整えれば、日常生活でつまずくこともなくなるし、階段の上り下りも見違えるほどスムーズになるよ。」


3. アクティブ・ストレート・レッグレイズ(分離と協調のチェック)

最後は、仰向けになって行うテストです。特定の場所を動かしているとき、別の場所を「固定」できているかを確認します。

  • やり方:
    1. 仰向けに寝て、両脚を伸ばします。両手は手のひらを上にして横に置いて。
    2. 片方の脚を、膝を伸ばしたままゆっくりと天井に向かって上げていきます。
    3. このとき、床に残している方の脚の膝が曲がったり、つま先が外に開いたりしないように注意します。

【ここがチェックポイント!】

「これ、意外と難しいでしょ? 上げる方の脚にばかり意識がいきがちだけど、実は大事なのは『床に残している方の脚』なんだ。

右足を上げるとき、左足はしっかり地面を捉えていなきゃいけない。これを専門用語で『分離(セパレーション)』って言うんだ。 歩くときも、走るときも、片方が動けば片方は支える。この役割分担ができていないと、股関節の詰まりや腰痛の原因になっちゃう。筋肉を鍛える前に、この『右と左の別々の仕事』を脳に思い出させてあげることが、究極の怪我予防になるんだ。」


さいごに:テストの「結果」よりも大切なこと

これらのテストをやってみて、「全然できなかった……」と落ち込む必要はありません。むしろ、「自分の体のどこに伸び代があるのか」を見つけたということです。

「筋肉を指導するトレーナー」は、できなかったら「もっと鍛えましょう」と言うかもしれません。 しかし「動作を指導するトレーナー」は、「なぜできなかったのか? その原因となるブレーキをどう外すか?」を一緒に考えてくれます。

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