【パーソナルトレーナーの教科書】Vol.8 回旋系トレーニングでクライアントのパフォーマンスを劇的に向上させる秘訣

パーソナルトレーナーの皆さん、こんにちは!クライアントのトレーニングプログラムを組む際、どのような動作パターンを重視していますか?スクワットやデッドリフト、ベンチプレスといった直線的な動きはもちろん重要ですが、実はもう一つ、見落とされがちな、しかし非常に重要な要素があります。それが「回旋系トレーニング」です。

「回旋」と聞くと、なんだか難しそう…と感じるかもしれませんね。でも、安心してください!この記事では、回旋系トレーニングの基本的な考え方から、クライアントの評価方法、そして具体的なトレーニング設計のコツまで、パーソナルトレーナーの皆さんが明日からすぐに実践できるような内容を、初心者の方にも分かりやすく、そして深く掘り下げて解説していきます。

クライアントのパフォーマンスを劇的に向上させ、日常生活の質を高めるためにも、この回旋系トレーニングの知識は不可欠です。さあ、一緒に回旋運動の奥深い世界を探求していきましょう!


INDEX

回旋系トレーニングがなぜ重要なのか?

日常生活もスポーツも「回旋」がカギ

私たちの体は、本当に複雑で素晴らしい動きをしますよね。実は、どんな動作パターンにも、この「回転の動き」が必ず含まれているんです。例えば、日常生活でドアを押す動作を想像してみてください。ただ腕の力だけで押しているわけではないですよね?体全体が少し回転したり、あるいは回転しようとする力に抗いながら、体を固定して押したりしています。そう、無意識のうちに回旋の力が働いているんです。

スポーツの世界では、さらに顕著ですよね。野球でボールを投げる、ゴルフでボールを打つ、サッカーでボールを蹴る、あるいは相手からの衝撃を受け流す…これら全てのシチュエーションで、体の「回旋」が非常に重要な役割を果たしています。

私たちの体は、前後、左右、そして「回旋」という三次元的な動きで構成されています。この三次元的な動きがスムーズに行われることで、私たちは効率的で力強い動作を生み出すことができるんです。回旋動作の機能が向上すれば、日常生活での動きが楽になったり、スポーツでのパフォーマンスが格段にアップしたりと、クライアントにとって良いこと尽くめなんですね。

パフォーマンスピラミッドから見る回旋の土台

トレーニングのパフォーマンスピラミッドという考え方を覚えていますか?これは、過去の講座でも出てきた重要な概念です。力強い回旋動作を獲得するためには、まずその土台がしっかりしている必要があります。その土台となるのが、「モビリティ(可動性)」と「スタビリティ(安定性)」の獲得なんです。

ある一定以上のモビリティとスタビリティが備わって初めて、私たちは力強い回旋動作、つまり「パワーを伴った回転動作」ができるようになります。このパワーを伴った回旋動作は、「ロータルストレングス(回転の強さ)」と呼ばれ、さらに素早い回旋での筋力発揮は「ロータリーパワー」として可能になります。

これらの能力が最終的に、クライアントが目指すスポーツ特有の動きや技術へと反映されていくわけです。例えば、野球選手がバットを振る、ゴルファーがクラブをスイングするといったダイナミックな動きには、このロータリーパワーが不可欠です。一方で、相撲のように相手を押す動作では、大きく回旋するのではなく、むしろ回旋に抗いながら体を安定させるスタビリティが重要になることもあります。

このように、スポーツや場面によって回旋の使い方は様々ですが、その根底にはモビリティとスタビリティという土台がしっかりと存在していることを忘れてはいけません。固定されるべき場所が安定し、動くべき場所がスムーズに動く。この「土台と動く部分の交互の配置」が非常に大事になってくるんですね。これは、以前学んだ「ジョイントバイジョイントセオリー」にも通じる考え方です。


回旋運動を深く理解する!狭義と広義の視点

回旋運動と一口に言っても、実は二つの捉え方があるんです。一つは「狭い範囲での回旋」、もう一つは「広い範囲での回旋」です。この二つの視点を持つことで、クライアントの動きをより深く分析し、適切なアプローチを見つけることができます。

狭義の回旋運動:関節ごとの動きに注目

「狭義の回旋運動」とは、ある特定の関節の動きに焦点を当て、その関節がローテーションしながら筋力を発揮することを指します。簡単に言うと、体の一部分だけを見て、そこでの回転運動を評価するイメージですね。

例えば、肩甲上腕関節(肩の関節)の内旋や外旋、腕の付け根からの内旋や外旋などがこれにあたります。股関節からの内旋・外旋、腰椎での回旋なども、この狭義の回旋運動に含まれます。クライアントが特定の動作で痛みを感じたり、動きが制限されている場合、まずはこの狭義の視点から、どの関節に問題があるのかを特定していくことが重要になります。

広義の回旋運動:全身を使ったダイナミックな動き

一方、「広義の回旋運動」は、下半身や上半身といった大きなエリアごとに見ていく回旋運動です。つまり、体全体を連動させて行うダイナミックな回転運動のことなんですね。

下半身では足部、膝、股関節。上半身では胸椎、肩複合体(肩の関節は大きく分けて5つあるので、複合体として捉えます)、肘、手首といった複数の関節が連動して動きます。さらに、上半身と下半身の両方を一緒に使って行う回転運動は、「粗大運動」とも呼ばれ、全身の協調性が求められます。

クライアントの動きを評価する際は、まずこの広義の視点から、トータルな動きをざっくりと見てみましょう。もし、その中で「あれ?この動き、なんだかスムーズじゃないな」と感じる部分があれば、そこから狭義の視点に切り替えて、具体的な関節や筋肉に問題がないかを深掘りしていく、というアプローチが効果的です。大きな視点と狭い視点、この二つを行き来することで、クライアントの課題を正確に捉えることができるようになります。


クライアントの回旋能力を評価するポイント

クライアントの回旋能力を正確に評価することは、効果的なトレーニングプログラムを組む上で非常に重要です。ここでは、特に注目すべき評価ポイントをいくつかご紹介します。

関節可動域(ROM)のチェック

まずは、各関節の「可動域(Range of Motion: ROM)」が正常かどうかを確認しましょう。回旋に関わる主要な関節は、特に注意して見ていきたいところです。

  • 肩複合体(上腕骨の内旋・外旋): 肘を曲げて腕を折りたたんだ状態で、上腕骨が内旋・外旋する動きです。一般的に、90度前後が正常な可動域と言われています。
  • 股関節の内旋・外旋: 足の付け根は正面を向いたまま、つま先がまっすぐ前の状態(ニュートラル)から、内側にも外側にもそれぞれ45度程度動くのが目安です。

ただし、人間の体は一人ひとり個性がありますから、骨の形状によって回る人もいれば、そうでない人もいます。そのため、「必ずここまで動かなければならない」と思い込むのは少し危険です。クライアントの個性を考慮しながら、ある程度の幅を持って評価することが大切ですよ。

「動くけどコントロールできない」と「構造的に動かない」の違い

可動域をチェックする際、非常に重要なのが「自動運動」と「他動運動」の違いです。

  • 他動運動で動くが、自動運動で動かない場合: トレーナーがクライアントの体を動かした際には正常な可動域があるのに、クライアント自身で動かそうとすると動かない、というケースがあります。これは、クライアントの「モーターコントロール(筋力をコントロールする能力)」が低いことに起因します。構造的には動くはずなのに、脳がその動きを認識できていない、あるいは筋肉をうまく使えていない状態なんですね。この場合は、筋肉の使い方を教えたり、脳に「ここまで動くんだよ」という認識をしっかり与えてあげることが必要になります。
  • 他動運動でも動かない場合: トレーナーが動かそうとしても、そもそも関節が動かない、というケースです。これは、関節の構造的な問題や不具合が原因である可能性が高いです。骨の変形や関節の状況が良くない場合、まずはそのアライメント(姿勢や配列)を整えるところからスタートし、正常な関節の状態を取り戻す必要があります。

このように、どこがどう動いていて、なぜ動かないのか、その原因を見極めることが、適切なトレーニング内容を決定する上で非常に重要になります。

可動域を制限する要因

関節の可動域を狭める原因は一つではありません。いくつかの要因が複合的に絡み合っていることが多いです。

  • 筋肉の硬さや失調性: 関節の周りにある筋肉が硬くなっていたり、うまく機能していなかったりすると、動きが制限されます。
  • 関節包や関節液の問題: 関節の中にある関節包が硬くなっていたり、関節液の量が少なくなっていたりすると、関節そのものがスムーズに動かなくなります。

これらの要因を一つずつ視野に入れ、消去法で原因を探っていくことが大切です。


筋出力の発揮方法:グローバルとスタビリティ

回旋動作を行う際の筋出力の発揮方法には、大きく分けて二つのタイプがあります。一つは「グローバル(ダイナミックな回旋)」、もう一つは「スタビリティ(回旋に耐える力)」です。

グローバル(ダイナミックな回旋)

「グローバル」とは、股関節や体幹をダイナミックに大きく使って回旋する動きを指します。これは、実際に体を大きく動かして動作を行うタイプですね。

例えば、パンチを打つ時、ゴルフのスイング、テニスのラケット動作など、全身の力を連動させて大きなパワーを生み出すような動きがこれにあたります。下半身から踏ん張って、そのエネルギーを全身を通して伝達し、回していく。まさに「キネティックリンク(運動連鎖)」の考え方が重要になってきます。地面からの力を体幹部(ピラー=柱)へと伝え、最終的に手足へと繋げていくイメージです。

スタビリティ(回旋に耐える力)

一方、「スタビリティ」とは、体が回転しようとする力に対して、それに耐えるような形で使う筋出力の方法です。見かけ上は大きく動いていないように見えても、内部では強力な回転力に抵抗している状態なんですね。

先ほどのドアを押す例で考えてみましょう。手でドアを押している時、もし体の回旋に抵抗する力がなければ、押した反動で体が反対方向にぐにゃっと回ってしまうはずです。この「回ってしまう力」に対して、「回らないように対抗する」のがスタビリティの役割なんです。

相撲で相手を押す時や、何かに踏ん張って耐える時、あるいは四つん這いの状態で片手を浮かせた時に、体が回転しようとする力に抗って安定を保つ動きなどがこれにあたります。安定した体幹から力が生み出され、中心から外へと力が伝わるようなイメージですね。

日常動作やスポーツにおける使い分け

このグローバルとスタビリティは、日常動作やスポーツのシチュエーションによって使い分けられます。

例えば、窓を拭く動作一つとっても、大きく腕を伸ばして拭く場合は、体全体を大きく回旋させる「グローバル」な動きが中心になります。しかし、狭い範囲をゴシゴシと強い力で拭く場合は、体幹を固定し、回旋力に抵抗しながら拭く「スタビリティ」の要素が強くなるんです。

クライアントがどのような動作を求めているのか、その動作の特性に合わせて、グローバルとスタビリティのどちらを強化すべきかを見極めることが、トレーナーの腕の見せ所ですよ。


機能的動作を強化するトレーニング設計のコツ

ここまで回旋運動の重要性や評価方法について見てきましたが、いよいよ具体的なトレーニング設計の話に入っていきましょう。クライアントの機能的動作を強化するためのドリルや種目をどう設定していくか、そのコツをご紹介します。

クライアントのニーズと能力を最優先に

エクササイズを選定する上で最も大切なのは、クライアントの「動作のニーズ」と「能力」をしっかりと把握することです。クライアントが日常生活でどんな活動をしているのか、どんなスポーツをしているのか、どんな動きに課題を感じているのか。これらを丁寧にヒアリングし、観察することで、どのような動作に集中すべきかが見えてきます。

まずは、クライアントが行う様々な活動から、必要な動作パターンをリストアップしてみましょう。俯瞰的な視点からクライアントの動き全体を捉え、どこができていないのか、何が必要なのかを洗い出すことが、効果的なプログラム作成の第一歩です。

動作パターンの組み合わせ方

機能的動作を強化するためのトレーニングは、いくつかの主要な動作パターンを組み合わせて行われます。基本となるのは以下の4つのパターンです。

  1. 上半身の動作
  2. 下半身の動作
  3. 全身の動作
  4. 回旋動作

このうち、上半身、下半身、全身の動作は、さらに「プッシュ(押す)」か「プル(引く)」のどちらかに分類されます。

足のポジションでバリエーションを増やす

上記の基本パターンに加えて、足のポジションを変えることで、トレーニングのバリエーションは無限に広がります。足のポジションの種類は以下の通りです。

  • シッティング: 座った状態。
  • スタンディング: 立った状態。
  • スプリットスタンス: 足を前後に開いた状態(ランジのような姿勢)。
  • ワンレッグ: 片足立ちの状態。
  • ニーリング: 両膝をついた状態。
  • ハーフニーリング: 片膝をつき、もう片方の足を前に出した状態。
  • ハイスプリット: スプリットスタンスの前足が高台に乗っている状態。
  • リアフットエレベイテッド: 後ろ足を持ち上げている状態。

これらの下半身の形と動作の種類を組み合わせることで、クライアントのレベルや目的に合わせたエクササイズを創造することができます。

収縮様式も考慮に入れる

さらに、筋肉の収縮様式もトレーニング設計の重要な要素です。

  • コンセントリック: 筋肉が短縮しながら力を発揮する(例:ダンベルを持ち上げる)。
  • エキセントリック: 筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する(例:ダンベルをゆっくり下ろす)。
  • アイソメトリック: 筋肉の長さが変わらずに力を発揮する(例:壁を押す、静止する)。

例えば、シッティングの状態で上半身のプッシュ動作を行う場合、ゴムバンドを使って押し出す動作はコンセントリックが中心になります。一方で、壁に手をついて押した状態で固定する動作はアイソメトリックになりますね。これらの要素を組み合わせることで、より多角的で効果的なトレーニングプログラムを組むことができるんです。

具体的な種目例の考え方

トレーニング種目は、上記の要素を掛け合わせることで作られます。

  • 上半身のプッシュプル:
    • 押す方向: 水平に押すのか、垂直に押すのか、斜めに押すのか。
    • 引く方向: 水平に引くのか、垂直に引くのか。
    • : シッティングで垂直に引くならラットプルダウン、水平に引くならシーテッドロー。
    • 腕の使い方: 両腕で押すのか、片腕で押すのか、交互に押すのか。
  • 下半身のプッシュプル:
    • 足の使い方: 両足で押すのか、片足で押すのか。
    • プルの種類: 股関節優位(デッドリフトなど)か、膝関節優位(スクワットなど)か。
    • : デッドリフトでも、膝を伸ばした状態で行うのか、足幅を広げて膝も使う相撲デッドリフトにするのかで、効いてくる筋肉や動作が変わってきます。
  • 全身のプッシュプル: 全身を使った押す・引く動作。
  • 回旋動作:
    • 中心: 上半身中心(胸椎、肩関節)、下半身中心(股関節)、全身。
    • タイプ: スタビリティ(回旋に耐える)か、プロパルシブ(ダイナミックに回旋する)か。

これらの組み合わせによって、数えきれないほどの種目が生み出されます。既存の種目に当てはめるだけでなく、クライアントの状況に合わせて、あなた自身で最適な動きをデザインし、処方していくこともトレーナーの大切な役割です。


まとめ

いかがでしたでしょうか?回旋系トレーニングは、日常生活の質向上からスポーツパフォーマンスの最大化まで、クライアントの目標達成に不可欠な要素であることがお分かりいただけたかと思います。

回旋運動の奥深さを理解し、クライアントの動きを「狭義」と「広義」の両面から評価する。そして、モビリティとスタビリティという土台の上に、グローバルなパワーとスタビリティの安定性を兼ね備えたトレーニングを設計する。これこそが、パーソナルトレーナーとしてクライアントを次のレベルへと導くための秘訣です。

今回ご紹介した知識を活かし、ぜひあなたのクライアントに合わせた最適な回旋系トレーニングプログラムを組んでみてください。きっと、クライアントの体は劇的に変化し、あなたの指導に心から感謝してくれるはずです。

これからも、クライアントの可能性を最大限に引き出すために、一緒に学びを深めていきましょう!

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