対照群を作れない現場で、因果を取る

対照群を作れない現場で、因果を取る

The Kuriyama Protocol の6つの手続き

栗山智光(一般社団法人 人間コンシェルジュ協会 理事長)
公開日:2026年10月24日
DOI:10.5281/zenodo.23610607
連絡先:contact@medi-gym-revital.com
第1弾「検証されていない8つの予測」:10.5281/zenodo.23587879
第2弾「棄却の記録」:10.5281/zenodo.23587670
第3弾「画一的なフォーム指導は、不適切なのではなく、実行不可能である」:10.5281/zenodo.23526074
第4弾「最適解は、信号ゼロとして現れる」:10.5281/zenodo.23609857

ここまでの4本で、予測と、棄却と、理論と、原理を出してきました。この記事では、それらをどうやって得たのかを書きます。

エンジニアは、結論より先に手続きを見ます。どう測ったのか、対照は何だったのか、外れた予測をどう扱ったのか。それが分からない主張は、正しくても受け取れません。本来なら最初に置くべき記事です。それを最後に置いたのは、方法は成果を見せた後でないと読まれない、と考えたからです。

私の主張は、実験室で得たものではありません。24年間の指導現場で、毎回1人ずつ、装置を使わずに得たものです。この記事では、そのために使ってきた6つの手続きを書きます。それぞれの弱点と、手続きそのものが外れていることを示せる予測も、一緒に書きます。手続きが信用できなければ、その上に建てた4本の記事も信用できないからです。

この記事の構成
  • 0 この手続きが前提にしている現場
  • 1 片側対照
  • 2 終了則
  • 3 順問題探索
  • 4 代償トリガー
  • 5 偽装コスト順位
  • 6 著者被験
  • 7 検証装置としてのAI
  • 8 6つの手続きは、互いの弱点を補っている
  • 9 手続きそのものを外せる予測(6件)
  • 10 反証を歓迎します
  • English summary
  • 文献
INDEX

0 この手続きが前提にしている現場

The Kuriyama Protocol は、次の4つの条件がそろった現場で、統計に頼らずに、1人の身体の中で因果を取るための手続きです。

  • 変数が多すぎる。全部を測ることが実用にならない
  • 自己申告が、使えるチャネルの中で最も信頼できない
  • 対照群を作れない。人は1人ずつ来る
  • 報酬が外から与えられない。競技者ではないので、成績という外の基準がない

統計が使えない理由を、先に書いておきます。群を作れません。同じ日に同じ状態の人を20人集めることはできない。盲検にできません。指導は言葉と接触で行うので、指導者も本人も、どちらの条件かを知っている。装置がありません。床反力計も三次元動作解析装置もなく、あるのは目と手と、本人の報告だけです。そして、同じ人が二度と同じ状態になりません。前回との比較は、睡眠、仕事、気温、感情のすべてと混ざります。

この4つがそろうと、残る道は1つになります。同じ人の、同じ時刻の、内部での比較です。左右という対を持つ身体は、そのための対照をもともと持っています。

手続き英語名何をするか
片側対照Contralateral Self-Comparison片側だけ処置し、本人に左右を比較させる
終了則Stopping Ruleどこで終えるかを、処置の前に決める
順問題探索Forward-Only Search原因の追及をやめ、策を並列に打って、効いたものから事後に原因を推す
代償トリガーCompensation-Triggered Debugging代償が出たかどうかの1ビットで、探索を始める
偽装コスト順位Deception-Cost Ordering情報のチャネルを、偽装に要するコストで順序づける
著者被験Author-as-Subject他人に課さない負荷は、自分の身体で実測する

この6つは、現場では20年以上、名前のないまま使っていました。名前を付けたのは2026年9月で、書籍のための事後の整理です。手続きが先にあり、名前が後から付きました。

1 片側対照

主張

片側だけを処置し、本人に左右を比較させます。これによって、個人差という最大のノイズ源が消えます。

2人を比べる場合(群間比較):Δ = τ +(uA − uB)+ ε 同じ人の左右を比べる場合(片側対照):Δ = τ +(sR − sL)+ ε 意味:Δ は観察される差、τ は処置の効果、uA と uB はAさんとBさんそれぞれの個人差(体格、既往歴、その日の体調、覚醒度)、sR と sL は同じ人の右と左の差、ε は測定のばらつきです。群間比較で最も大きいのは個人差の項です。片側対照では、その項が式から消えます。統計が大人数を集めて打ち消そうとしているノイズを、1人の中で消していることになります。

観察

確認を通った記録は30件以上あります。処置の部位も、比較させる出力も、記録の時期も異なります。4件を挙げます。

2026年8月、講座にて
「じゃあ今こっちだけ右側だけほぐしましたよね。右回転どうなったちょっとやりやすいのわかる反対側の回転どうあんま変わらないね。(中略)胸鎖骨周り改善するとこんだけ体の回転変わります。」
2026年5月、講座にて
受講者:「全然違う。(中略)こっちは本当に義足だもん。」
指導者:「重さは、本当に変わってないんですよ。(中略)体重計に乗せても右と左、重さ変わったわけじゃないんだけど、なんでこんな軽いんだろうなって。」
2026年5月、講座にて
指導者:「すごい簡単に左側だけ解除したんですけど,これでもう一回立ってもらってどうかなっていう感じですね(中略)足音変わりましたねえー。」
受講者:「わかりますうん。」
指導者:「えーあ、同じぐらいの音になった。」
2026年3〜4月、講座にて
「オッケー足長くなりましたかなった。はい。これ今皆さんね自分で自分の足に暗示をかけてるんです。こんだけやったから柔らかくなったに違いないってもう暗示がかかってます。で、後ろについて両足前にポイ。はい、目閉じてみて。どっちの足の方が長い感じするじゃあどっちの足の方がはっきりわかる。」

導出

この手続きの要点は、対照を作ったことではなく、比較する主体を本人に置いたことにあります。指導者が外から見れば、見えるのは動作の形です。本人が比べれば、比べられるのは内部の状態です。記録で本人が報告している量を並べると、回しやすさ、地面を押せる感じ、粘り、柔らかさ、軽さ、長さ、存在感、歩幅、踏ん張り、脱力のしやすさ。どれも外からは測れず、しかも本人にとっては左右の差として即座に分かる量です。

絶対値を報告させると使えません。「重さ7」に意味はない。左右の差として報告させると使えます。人間は絶対量を当てるのは苦手ですが、同時に与えられた2つを比べるのは得意だからです。

記録のうち1件だけ、本人の報告に頼らない出力があります。接地音です。足音の左右差は指導者にも受講者にも同時に聞こえ、処置の前後で変わりました。主観の報告だけで組み立てた手続きではない、という点で、この1件は重いと考えています。重さの記録も同じ向きに効いています。本人は「義足」と言っていますが、体重計の値は変わっていない。変わったのは質量ではなく、身体の地図(身体図式)の側です。

照合

1人の中で因果を取る手続きは、医学と心理学に先例があります。1人の患者の中で治療と対照を無作為に入れ替える N-of-1 試験(Guyatt ら, 1986)、単一事例実験計画、そして皮膚科の臨床試験で使われる、顔や身体の左右で条件を分ける split-face/split-body 法です。人間が絶対的な判断では少数の段階しか区別できないことは、古典的に知られています(Miller, 1956)。

違いは2点あります。第一に、測るのが装置ではなく本人であること。第二に、比較の目的が効果の大きさを測ることではなく、本人の内部モデルを更新することです。左右の差を感じた瞬間に、学習の信号が立ちます(第4弾の式で g が1になる)。つまりこの手続きは、測定であると同時に介入です。

弱点(3つ)

第一に、測定が対象を変えてしまいます。測った瞬間に学習が起きるので、処置前の状態に戻して測り直すことができません。

第二に、盲検にしていません。記録はどれも、どちらを処置したかを本人に知らせた状態で行っています。期待による効果を排除できていません。上に挙げた4件目は、この弱点を私自身がその場で認めている記録です。盲検にする方法はあります(どちらを処置したか告げずに比べさせる)が、現場では実施していません。

第三に、式に残っている項があります。これは書籍に書いていなかったもので、この記事のために式を見直して気づきました。片側対照で消えるのは個人差の項 uA − uB ですが、その代わりに左右差の項 sR − sL が残っています。人の身体はもともと左右が違います。処置した後だけ比べれば、観察した差には、処置の効果と、もともとあった左右差の両方が入っています。

差の差:τ の推定 =(R後 − L後)−(R前 − L前) 意味:処置の後の左右差から、処置の前の左右差を引きます。もともとあった左右差 sR − sL は前後で共通なので、引き算で消えます。残るのは処置の効果 τ と測定のばらつきだけです。処置の前にも左右を比べさせておけば、現場でもすぐにできます。

ただし、第一の弱点との兼ね合いがあります。処置の前に比べさせること自体が、学習の信号を立ててしまいます。そのため、処置前の比較は短く、処置側を決める前に行う必要があります。書籍に載せた記録は、すべて処置後の比較です。

件数について記録しておきます。当初11件を確認し、追加の抽出で23件が返って合計34件になりましたが、少なくとも3件に重複の疑いがあります。正確な件数を確定できないので、「30件以上」と書いています。

判定

採用。ただし、測定が介入を兼ねるため同じ条件を繰り返せない、期待効果を排除できていない、処置前の左右差を引いていない、という3つの限定を付けます。2番目と3番目は、手続きを変えれば現場でも直せます。予測17と18は、そのための検証です。

2 終了則

主張

どこで終えるかを、処置の前に決めます。改善は、新しい非対称を生むからです。終了の条件は目的関数が指定します。目的関数の指定がなければ、左右がそろった状態で終えます。

観察

2026年3〜4月、講座にて(片足だけにマッサージを行い、左右を比べさせた直後)
「じゃあ今日ね皆さんこのままお帰りいただくとどうなるかっていうと脳みそは。(中略)右体重乗りやすいなと思うんですね。」

導出

片側の改善が新しい非対称を生む理由は2つあります。1つは配置です。左だけを良くすれば、左右の高さ、長さ、支えやすさが変わり、身体はそれを打ち消す配置を新たに作ります。

もう1つの方が重い問題です。上の発言が指しているのは、配置ではなく選択の偏りです。使いやすくなった側は使われる。使われた側はさらに使いやすくなる。片側だけの処置は、学習の勾配を片側に作る操作でもあります。

したがって「良くする」は終了の条件になりません。終了の条件は、状態で書かなければなりません。

処置を終える条件:d ≦ d許容(目的関数の指定がない場合) 目的関数がある場合:J(身体の状態)が指定の値に達したとき 意味:d は左右差。d許容 は、本人が左右の違いを感じ取れなくなる水準。J は目的関数です。指定がなければ左右差をゼロに近づけて終えます。これは「左右対称が正しい」という主張ではなく、目的が指定されなかったときの初期値です。

照合

停止条件を先に定義するのは、最適化と制御では標準的な設計です。停止条件のない最適化は、発散するか、過剰に適合します。身体運動の指導では、この設計は一般的ではありません。多くの指導は「良くなるまで」続けられます。片側だけを処置する設計を取る以上、停止条件は必須です。片側対照と終了則は、組みでしか成り立ちません。

判定

採用。

3 順問題探索

主張

変数が多すぎる系では、原因の追及をやめます。今の事実だけを見て、改善策を並列に打つ。効いた策から、原因を事後に推します。

観察

著者の口述(日付未取得)
「利き足は脳の神経発達と学習の両面の影響を受ける。(中略)変数が多すぎるので原因を探ることは無意味と判断して切り捨てている。今現在の事実だけにフォーカスし、改善策を多数講じる。その中で一番改善効果を発揮した策から、後々原因を推測することはする。」

2026年9月の口述では、同じ考え方を修正の順序にも使っていることを話しています[要約]。決まった順序(荷重、体幹、下肢、運動連鎖)で進めて改善が見られなければ、順序を崩してボトルネックと思われる段階に先に手を付ける。その後、決まった順序の最初に戻って滑らかに進むようになれば、そこがボトルネックだったと判定する。

導出

逆問題:原因 = f⁻¹(今の身体) …… 解が一つに定まらない 順問題:変化 = f(打った策) …… 打てば観測できる 意味:f は身体の応答です。結果から原因を求めようとすると、候補が無数に出ます。同じO脚の歩き方に対して、足部、股関節、視覚、呼吸、過去の痛み、生活環境のどれもが原因になりうるし、たいていは複数が同時に効いています。一方、策を1つ打てば、効いたか効かなかったかは観測できます。原因は、効いた策が分かった後で、事後に推します。

決まった順序は、守るべき規則ではなく、比べるための基準です。決まった順序で進めて改善しないという事実があって初めて、順序を崩すことに意味が生まれます。

代償もあります。効いた理由が分からないまま改善することがあります。再現性は、効いた策の記録によってしか担保されません。

照合

医学には、治療への反応から診断を確定させる「治療による診断」(ex juvantibus)という考え方が以前からあります。この節はその一般化で、手法そのものは新しくありません。私の側の違いは、これを最初から既定の探索戦略として採用し、原因の追及に時間を使わないと決めている点です。制御と機械学習の言葉で言えば、勾配が計算できない系での並列探索に当たります。

判定

採用。既知の手続きとの一致を明記します。

書籍のこの節には「原因を特定してから介入する設計より、並列に打って事後に同定する設計の方が、1セッションあたりの改善の検出率が高い」という予測があります。2つの設計で探索に使える時間をそろえる方法をまだ決めきれていないので、この記事では登録しません。

4 代償トリガー

主張

全部の関節を常に測ることはしません。代償が出たか出ないかという1ビットを見て、出たときだけ上流をたどります。

観察

著者の口述(日付未取得)
「各関節の可動域を単体で見ることもあるが、その動作ができているのであれば目標可動域に到達しているとして計測自体をしない。代償運動が出た際に関してのみ、ボトルネックとなっている関節から特定を始め、医学書記載の可動域を目標に施術なり運動訓練を行う。」
講座にて(日付未取得)
「足首が硬い人どうなるの。ってここが動いてない部分の動きが、他が代償を払います。(中略)その両端が被害を被るんです。」

導出

常に全部を測るコストを見ます。下肢と体幹だけで主要な関節は十数個あり、それぞれに3方向の自由度があります。毎回すべてを測れば、1人あたりの測定時間は指導の時間を超えます。

代償は、このコストを1ビットに圧縮します。代償とは、必要な仕事を本来の関節が果たせず、別の関節が肩代わりした状態です。代償が出たこと自体が、「どこかにボトルネックがある」という信号になっています。そして上の2つ目の発言は、探す向きを示しています。肩代わりする先は、動かない関節の両隣です。

これは第3弾の Π₄(可動域充足率)と同じ構造です。可動域は出力に掛からず、足りないときだけ隣の関節へ転送される。転送が起きたときだけ見ればよい、ということになります。

照合

課題の達成に関係しない偏差は直さない方が最適である、という最小介入原理が、確率最適制御の理論から導かれています(Todorov & Jordan, 2002)。追うべきは課題の達成を妨げている偏差、つまり代償として現れるものだけです。私はこの理論を知る前から、現場でこの手続きを使っていました。第1弾で、理論が後から一致した事例の1つとして挙げたものです。

判定

採用。

5 偽装コスト順位

主張

人から得られる情報は、偽装に要するコストで順序づけられます。コストが最も高いチャネルは、最も帯域が狭い。

順位偽装の難しさチャネル
1偽装するには、内部の状態そのものを変えるしかない肌の血色、瞳孔の大きさ、意識していないときの呼吸
2内部の状態に従って出るが、部分的には意図で上書きできる表層の筋のトーン、身体が内側へ丸まる姿勢
3意図で変えられるが、本人が気づいていない腕組み、足組み、顔や身体に触れる、舌なめずり、ため息
4意図で自由に変えられる(会話)勝ち負け、上下、優劣を基準にした会話
5意図で自由に変えられる(自己申告)睡眠時間、痛み、体調

本人の申告は、最も情報量が多く、最も信頼度が低い。

観察

2026年6月、講座にて
「これ大きさコントロールできるの知ってます?黒目の大きさって変えられるってこと知らないことはできないんです。交感神経が働くと黒目がでかくなるんですね。副交感神経が働くと黒目ちっちゃくなるんです。(中略)頭の中でものすごく忙しく考え事してる人って交感神経優位なんですよ。グワーって考えてみる。そうするとね、黒目って大きくできるんです。」
2026年8月、講座にて
「マッサージしてない側に足体重かけてみて、ちょっとふらつくのわかります。(中略)でも柔らかくなった側に乗せて楽にしてみて、力抜けやすいんです。もう一回マッサージしてない側行って、脱力してって言ってもしづらいのわかりますか。」

導出

順序を決めているのは、そのチャネルに、意図で動かす経路が通っているかどうかです。

観測値 = 内部状態 + 意図による混入 信頼度 = 内部状態の成分 ÷(内部状態の成分 + 意図による混入の成分) 意味:自律神経の出力には、意図で動かす経路がほとんどつながっていません。意図による混入がほぼゼロで、信頼度は最大になります。言葉は完全に意図で動かせるので、混入は自由に入ります。自己申告には、言葉であることに加えて、本人の内側の感覚の精度という別の誤差も乗ります。

順位1の定義は、正確に書いておかなければなりません。上の1件目の記録のとおり、瞳孔の大きさは変えられます。ただし変え方が特殊です。瞳孔を直接動かすのではなく、頭の中で忙しく考える、あるいは何も考えない状態を作る。自律神経の状態そのものを変えることによってのみ、瞳孔が変わります。見せかけだけを変える経路がない。そして内部の状態を実際に変えたのなら、それはもう偽装ではありません。

書籍の初稿では、順位1を「偽装不能」と書いていました。この講座の記録が出てきたことで、「偽装するには内部状態そのものを変えるしかない」に書き直しています。現場の記録が、理論の側の定義を直した例です。

順位2が上位にある理由は、2件目の記録にあります。筋のトーンは、指示では下げられません。同じ人の左右でも、脱力できる側とできない側が分かれる。

皮肉な構造も書いておきます。最も情報量の多いチャネル(言葉)が最も信頼できず、最も情報量の少ないチャネル(瞳孔)が最も信頼できる。帯域と信頼度が逆向きに並んでいます。

照合

瞳孔の大きさが自律神経の状態と覚醒の水準を反映し、考える負荷がかかると開くことは、標準的な知見です(Kahneman & Beatty, 1966/Beatty, 1982)。瞳孔を動かす2つの筋は自律神経の支配を受け、意図による運動指令の経路を持ちません。この解剖学的な事実が、順位1の定義の根拠です。

心理学には、言葉より身体の方が本当の状態を漏らしやすい、という古典的な仮説があります(Ekman & Friesen, 1969)。この節の順位は、それと同じ向きを持っています。違いは、自律神経の直接の出力を最上位に置いたことです。

判定

採用。順位1は「偽装するには内部状態そのものを変えるしかない」と書きます。なお、呼吸は意図でも動かせる唯一の自律機能です。順位1に置いているのは意識していない場面での深さと速さで、指示を出した後の呼吸はこの順位に入りません。

6 著者被験

主張

一般のクライアントに課さない負荷は、私自身の身体で実測します。

観察

著者の口述(日付未取得)
「自身では15キロ3時間半の歩行や、動けなくなる限界を知るために走り続ける経験をしており、貴重なデータは取れたが、疲労困憊を突き詰めるには精神的強さと強い動機が必要だと感じた。」

第1弾の予測6に載せた約14kmの歩行の記録も、この手続きによるものです。

導出

疲労の中での最適化には、外から見ても分からない部分があります。どの時点で力みが消えたか、どの時点で疲労の信号が分かったか。これらは本人の内側の報告でしか取れません。他人を被験者にすると、報告の精度がその人の感度に左右されます(偽装コスト順位の順位5)。同時に、限界の負荷を他人に課すことには、危険と動機の問題があります。外から報酬が与えられない一般のクライアントに、疲れ切るまでの試行を求める設計は成り立ちません。だから私が引き受けます。

照合と判定

自己実験は科学史に例が多く、それ自体は例外的な手続きではありません。ただし限界も知られています。1人であること、盲検にできないこと、期待が結果に混じること。

採用。ただし、ここで得られるのは仮説であって、検証ではありません。単独では主張の根拠にしません。

7 検証装置としてのAI

主張

理論は私のものです。AIが果たしているのは、その理論を叩く装置の役割です。働きは3つあります。次元解析、反証の要求、文献の照合です。

観察:AIが私の主張を落とした例

2026年9月、書籍の執筆作業の中で、AIとの対話によって次の判定が出ました。20年使ってきた乗算の式が次元の上で成り立たないこと(第2弾の棄却4)。首の回旋の90%という数字が文献と合わないこと(棄却2)。死後硬直を根拠にした説明の機序が別だったこと(棄却3)。「意識:無意識=1:33000」の出所が確認できないこと。

この記事群を書く過程でも続いています。第3弾では、書籍の数値に食い違い(体重の「8.8倍」と書かれていた箇所が、計算では10.5倍)が見つかりました。第4弾では、私が書籍に書いていた「逃げる」の理由づけを式にすると、向きが合わないことが分かりました。

観察:AIが間違えた例

逆の記録も同じ重さで残します。

書籍の執筆中、講座の記録から逐語を抜き出すよう依頼したところ、原典に存在しない6件が、記録の番号と時刻を伴って提示されました。2段階目に「原典に無ければ逐語なしと書け」と問い直したところ、6件すべてが消えました。以来、逐語はすべてこの2段階を通しています。

第4弾の作業中には、AIの側の導出が2回誤りました。「感度の低い人はどこに留まるか」という単純なモデルの答えを、2回とも間違えています。数値計算で確かめた段階で見つかり、予測の書き方を直しました。

そして、この2段階の確認は、私に不利な結果も出しています。予測が当たった事例として数えていた1件で、確認側の記録が存在しないことが分かり、事例から外しました(第1弾の第3版で訂正)。

導出

AIが与えたのは正解ではありません。反証のコストを下げたことです。自分の主張に文献上の根拠があるかを調べるには、以前は検索と読解に数時間から数日かかりました。そのコストが高い限り、人は自分の主張を積極的には疑いません。コストが数分に下がると、疑うことが日常の作業になります。

判定そのものは、私が行っています。現場の観察と合うか、指導の実感と矛盾しないかを判断できるのは、データを持っている側だけです。第4弾では、AIが式で崩した理由づけを、私の現場での見立てが置き換えました。

判定

採用。ただし、AIの出力は、原典との突き合わせを通るまで根拠に数えません。この基準は外部の資料にも、私自身の教材にも同じように当てています。私の教材のうち、AIが文章化した解説文は、図や表にある情報だけを使い、解説文だけにある情報は使わない、と決めています。

8 6つの手続きは、互いの弱点を補っている

6つは別々の道具ではなく、互いの穴を埋めるように組んであります。

手続き弱点補っている手続き
片側対照出力が本人の申告(順位5)で、最も信頼度が低い偽装コスト順位:申告と同時に順位1・2のチャネルを読み、食い違わないかを見る
片側対照片側だけ良くすると、新しい非対称を作る終了則:終わり方を先に決める
順問題探索どこから打つかの手がかりがない代償トリガー:代償が出た場所の上流から打つ
代償トリガー代償の出ない負荷の領域が見えない著者被験:限界の負荷は自分で測る
著者被験1人で、仮説しか得られない片側対照:他人の身体で、個人差を消して比べる
6つ全部主張を自分で疑うコストが高い検証装置としてのAI:反証のコストを下げる

この組み合わせでも埋まらない穴が、1節に書いた2つです。盲検にしていないことと、処置前の左右差を引いていないこと。どちらも、手続きを変えれば現場で直せます。次の予測17と18は、直した手続きで何が起きるかを登録するものです。

9 手続きそのものを外せる予測(6件)

第1弾で8件、第3弾で4件、第4弾で4件を登録しました。この記事から6件を追加します。番号は17から続けます。これまでの予測は理論についての予測でしたが、ここでの予測は手続きについての予測です。外れれば、手続きの側が信用を失います。

予測17 盲検にしても、本人は処置した側を当てる

前提:片側処置の効果が、期待ではなく、身体の内部の状態の変化として起きている。

測定方法:処置する側を左右から無作為に選びます。本人には目を閉じてもらい、どちらを処置したかは告げません。処置しない側には、同じ時間だけ同じように触れて、ほぐす操作をしない偽の処置を行います。処置の後、本人に「どちらが回しやすいか」「どちらが地面を押せるか」などを比べてもらいます。答えを記録する人も、どちらを処置したかを知りません。先に処置前の左右差も比べてもらい、差の差で評価します。

予測:本人が「やりやすい」と答えた側が処置した側と一致する割合は、偶然(50%)を超える。

理論が分岐する点:片側対照の効果が期待だけで生じているなら、処置側を知らされない条件では一致率は50%に近づきます。この理論は、50%を超えると予測します。

外れた場合に何が壊れるか:片側対照で得てきた30件以上の記録は、期待の効果を記録していた可能性が高くなります。片側対照は介入としては使えても、測定の手続きとしては使えなくなります。この記事で最も重い予測です。

予測18 接地音の左右差は、処置の後に小さくなる

前提:片側処置の効果が、主観の報告だけでなく、身体の外に出る出力を変えている。

測定方法:片側処置の前と後に、裸足で一定の速さで歩く音を、携帯電話で録音します(床の種類と、録音機までの距離を固定する)。左右それぞれの接地ごとの音の大きさのピークを取り出し、左右差を求めます。処置前に音の大きかった側を処置する場合と、小さかった側を処置する場合の両方を行います。予測17と同じく、本人に処置側を知らせない条件でも行います。

予測:処置の後、左右の音の大きさの差が小さくなる。

理論が分岐する点:変化が主観の側だけで起きているなら、音は変わりません。

外れた場合に何が壊れるか:片側対照の効果が身体の外に出る出力を変えている、という根拠が消えます。効果は主観の報告の中に留まることになります。

装置を持たない方でも、携帯電話1台で確かめられる予測です。

予測19 本人の比較は、外からの観察より小さな差を見つける

前提:本人の左右比較が、外から見えない内部の状態を読んでいる。

測定方法:処置の量(たとえば、ほぐす時間)を段階的に変えます。本人が左右の差を報告し始める処置量と、処置側を知らない第三者の指導者が、外から動作の左右差を指摘し始める処置量を比べます。

予測:本人の方が、少ない処置量で差を見つける。

理論が分岐する点:外からの観察の方が敏感なら、比較する主体を本人に置く理由が弱くなります。

外れた場合に何が壊れるか:1節の「要点は、比較する主体を本人に置いたことにある」が崩れます。片側対照は、指導者が外から左右を比べる手続きに置き換えた方がよいことになります。

予測20 終了則を守らずに終えると、左右差は向きを変えて残る

前提:片側の処置が、学習の勾配を片側に作る。

測定方法:立位で左右の荷重を、体重計2台で測ります。荷重の少なかった側だけを処置して終える群と、終了則を満たして(本人が左右の違いを感じ取れなくなるまで反対側も処置して)終える群に分けます。次回の来所時(数日から1週間後)に、もう一度左右の荷重を測ります。

予測:片側だけで終えた群では、次回、処置した側に荷重が偏る。もともと少なかった側が、多い側に変わる。左右差は縮むのではなく、向きを変えて残る。

理論が分岐する点:片側処置の効果が時間とともに消えるだけなら、次回は処置前の左右差に戻ります。この理論は、処置した側への偏りとして残ると予測します。

外れた場合に何が壊れるか:終了則の根拠(片側の改善は新しい非対称を生む)が崩れます。片側対照と終了則が「組みでしか成り立たない」という主張も撤回することになります。

予測21 代償が出ていない関節を先回りして直すと、改善は小さいか、別の代償が出る

前提:課題に関係しない偏差を直すことは、得にならない。

測定方法:同じ課題(たとえばスクワット)で、2つの介入を比べます。代償が観察された関節の上流(ボトルネック)だけに介入する群と、代償の有無にかかわらず、すべての関節の可動域を医学書の基準まで直す群です。介入の総時間はそろえます。課題の成績と、新しく現れた代償の数を比べます。

予測:先回りして直した群の方が、改善が小さいか、新しい代償が多い。

理論が分岐する点:一般的な見方では、可動域は全体を整えておくほど良い。この理論と最小介入原理は、課題に関係しない偏差を直しても得にならず、かえって別の代償を生むと予測します。

外れた場合に何が壊れるか:代償トリガーは時間の節約にはなっても、成績を最適にする手続きとは言えなくなります。

予測22 言葉と自律神経が食い違うとき、その後は自律神経の側に従う

前提:偽装コストの順位が、チャネルの信頼度の順位でもある。

測定方法:セッションの始めに、本人の自己申告(体調、疲れ、痛み)と、自律神経のチャネル(瞳孔の大きさ、心拍の揺らぎ、呼吸の数、肌の色調。肌の色調と呼吸は携帯電話の撮影でも記録できる)を同時に記録します。両者が食い違った場面だけを取り出し、その後の経過(セッション中の動作の成績、翌日の申告)がどちらと一致するかを見ます。

予測:食い違った場面では、その後の経過が自律神経の側と一致する割合が高い。

理論が分岐する点:自己申告が内部の状態を正しく映しているなら、経過は申告の側と一致します。

外れた場合に何が壊れるか:偽装コスト順位の上下が入れ替わります。片側対照の出力(申告)を自律神経のチャネルで裏取りする運用も、根拠を失います。

10 反証を歓迎します

この記事の手続きのうち、一番弱いのは片側対照です。私の主張の多くがこの手続きで得られていて、しかもこの手続きは、盲検にしておらず、処置前の左右差を引いていません。予測17が外れれば、私がこれまで出してきたものの多くが、期待の効果の記録だったことになります。それを確かめる方法を、自分で書いておきます。

片側対照の式に左右差の項が残っていることは、書籍にも書いていなかった点です。この記事を書くために式を見直して気づきました。他にも、手続きの設計に穴があれば指摘してください。単一事例実験計画や N-of-1 試験の専門家から見て、すでに解決されている問題があれば、教えていただきたいと思います。

私は研究の作法を正式に学んだ人間ではありません。24年間、現場で観察と試行を続けてきただけです。誤りがあれば、新しいバージョンで直します。訂正前の版も、参照できる形で残します。

連絡先:contact@medi-gym-revital.com
引用:栗山智光(2026)「対照群を作れない現場で、因果を取る ― The Kuriyama Protocol の6つの手続き」The Kuriyama Protocol 記事第5弾. DOI: 10.5281/zenodo.23610607

English summary

Causal Inference Without Control Groups: Six Field Procedures of the Kuriyama Protocol

Chiaki Kuriyama, Human Concierge Association (Japan)
Published 2026-10-24 · DOI: 10.5281/zenodo.23610607 · Contact: contact@medi-gym-revital.com
Part 5 of a series. Part 1: 10.5281/zenodo.23587879 · Part 2: 10.5281/zenodo.23587670 · Part 3: 10.5281/zenodo.23526074 · Part 4: 10.5281/zenodo.23609857

Abstract

The four preceding articles registered predictions, published retractions, and stated a dimensionless theory and an information-gate principle. This article states how they were obtained. The setting has four properties: too many variables to measure, self-report as the least reliable channel available, no possibility of control groups (clients arrive one at a time), and no external reward. Under these conditions statistics is unavailable — no groups, no blinding, no instruments, and no individual ever returns in the same state — leaving one route: comparison within the same body at the same time. The body's left–right pairing supplies the control.

The six procedures. (1) Contralateral self-comparison: treat one side and have the client compare left and right. The between-person term (u_A − u_B) drops out of Δ = τ + (u_A − u_B) + ε. The client, not the instructor, is the comparator: quantities such as ease of rotation, lightness, or ground contact are invisible from outside but immediately available as a left–right difference, and relative judgments are far more reliable than absolute ones. Comparing is simultaneously measuring and intervening, since a perceived difference opens the learning gate of Part 4. (2) Stopping rule: decide the end state before treating, because one-sided improvement creates a new asymmetry and a one-sided learning gradient (the improved side gets used, and becomes more usable). (3) Forward-only search: abandon the ill-posed inverse problem (cause = f⁻¹(current body)), apply interventions in parallel, and identify causes after the fact from what worked — a generalization of diagnosis ex juvantibus. (4) Compensation-triggered debugging: do not measure every joint; use the single bit "did compensation appear?" and search upstream only when it does, consistent with the minimal intervention principle (Todorov & Jordan, 2002). (5) Deception-cost ordering: rank information channels by the cost of faking them — autonomic outputs (skin colour, pupil size, unattended breathing) can only be faked by actually changing the internal state, while self-report is freely editable; reliability = internal-state component / (internal-state component + intentional component). Bandwidth and reliability run in opposite directions. (6) Author-as-subject: loads not imposed on clients are measured on the author's own body, yielding hypotheses, never verification. AI is used as a verification device — dimensional analysis, demands for refutation, literature checks — and its errors are recorded with equal weight: six fabricated verbatim quotations with plausible file numbers and timestamps were eliminated by a second-pass check, and the AI's own derivations erred twice during Part 4 before numerical checks caught them.

Weaknesses stated openly. Contralateral self-comparison has three: measurement alters the state measured; no trial has been blinded, so expectation effects are not excluded (one recorded session shows the author acknowledging this on the spot); and — noticed while writing this article and not stated in the book — the formula leaves the intrinsic left–right term (s_R − s_L). Post-treatment comparison alone confounds treatment with pre-existing asymmetry. A difference-in-differences estimate, τ̂ = (R_post − L_post) − (R_pre − L_pre), removes it and is practicable in the field. The six procedures are arranged to cover each other's weaknesses; blinding and baseline subtraction are the two gaps they do not cover.

Registered predictions (about the procedures, not the theory)

P17. Blinded clients still identify the treated side. Randomize the treated side, apply a sham to the other (same touch, no manipulation), keep client and recorder blind, and score by difference-in-differences. Prediction: the side reported as easier matches the treated side above 50%. If not, the 30+ recorded contralateral comparisons were likely recording expectation; the procedure remains usable as intervention but not as measurement. This is the most consequential prediction in the article.

P18. Left–right footfall sound asymmetry shrinks after one-sided treatment. Record barefoot walking with a phone at fixed distance and surface before and after treatment, including blinded sessions. If the asymmetry does not change, the effect stays within subjective report. Testable by anyone with a phone.

P19. Self-comparison detects smaller differences than external observation. Grade treatment dose; compare the dose at which the client first reports a difference with the dose at which a blinded observer first sees one. If the observer is more sensitive, placing the client as comparator loses its rationale.

P20. Ending without the stopping rule reverses the asymmetry. Treat only the less-loaded side and stop, versus treat until the client can no longer feel a difference. At the next visit (days to a week), measure loading with two scales. Prediction: the one-sided group now loads the treated side more — the asymmetry persists with reversed sign rather than decaying to baseline.

P21. Pre-emptive correction of joints that show no compensation yields less improvement or new compensation, compared with correcting only upstream of observed compensation at matched total intervention time.

P22. When verbal report and autonomic channels disagree, the subsequent course follows the autonomic channel. Record self-report alongside pupil size, heart-rate variability, breathing rate and skin tone; in sessions where they conflict, test which predicts in-session performance and next-day report.

Request

Refutations are welcome, especially on P17: if it fails, much of what this series has published rests on expectation effects, and the author has written down how to find out. Experts in single-case experimental designs and N-of-1 trials are invited to point out problems already solved in their field. Corrections will be issued as new versions, with earlier versions kept retrievable.

文献

項目書誌
瞳孔と認知負荷(総説)Beatty J (1982). Task-evoked pupillary responses, processing load, and the structure of processing resources. Psychological Bulletin, 91(2), 276-292.
非言語の漏洩Ekman P, Friesen WV (1969). Nonverbal leakage and clues to deception. Psychiatry, 32(1), 88-106.
N-of-1 試験Guyatt G, Sackett D, Taylor DW, Chong J, Roberts R, Pugsley S (1986). Determining optimal therapy — randomized trials in individual patients. New England Journal of Medicine, 314(14), 889-892.
瞳孔と記憶の負荷Kahneman D, Beatty J (1966). Pupil diameter and load on memory. Science, 154(3756), 1583-1585.
絶対判断の限界Miller GA (1956). The magical number seven, plus or minus two: some limits on our capacity for processing information. Psychological Review, 63(2), 81-97.
最小介入原理Todorov E, Jordan MI (2002). Optimal feedback control as a theory of motor coordination. Nature Neuroscience, 5(11), 1226-1235.

この記事の作り方について

各手続きは、主張・観察・導出・照合・判定の順で書いています。主張が先、文献が後です。手続きは現場で20年以上使ってきたもので、名前と文献との照合は後から付けました。

観察の引用は、講座や口述の記録からの逐語です。日付が記録にないものは「日付未取得」と書いています。要約したものは[要約]と書いています。逐語は、AIによる抽出の後に「原典に無ければ逐語なしと書け」と問い直す2段階の確認を通しています。

ライセンス:CC BY 4.0。出典を示していただければ、自由に使っていただけます。

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