最適解は、信号ゼロとして現れる

最適解は、信号ゼロとして現れる

情報ゲートと、身体が最適から逃げる理由

栗山智光(一般社団法人 人間コンシェルジュ協会 理事長)
公開日:2026年10月24日
DOI:10.5281/zenodo.23609857
連絡先:contact@medi-gym-revital.com
第1弾「検証されていない8つの予測」:10.5281/zenodo.23587879
第2弾「棄却の記録」:10.5281/zenodo.23587670
第3弾「画一的なフォーム指導は、不適切なのではなく、実行不可能である」:10.5281/zenodo.23526074

最適な姿勢に近づくほど、身体の感覚受容器に入る信号は小さくなります。最適点では、ほぼゼロになります。

これは当たり前のことです。最適な姿勢とは、支えるのに最も力が要らない姿勢です。力が要らなければ、筋にも腱にも足の裏にも、ほとんど何もかからない。かからなければ、受容器は何も報告しません。

ところが、ここから当たり前でないことが出てきます。感度の低い身体にとって、最適な姿勢は「誤差のない状態」ではなく「何も分からない状態」です。そして身体は、何も分からない状態に留まらず、効率の悪い姿勢へ逃げていきます。逃げる先は、すでに慣れた姿勢です。

この記事は4本目です。第1弾で登録した8つの予測のうち、予測4、4b、5、6の4つは、別々の話に見えて、実はこの記事で書く1つの原理から出ています。その原理を、ここで初めてまとめて書きます。私の理論の中で、対応する研究を一番見つけにくかった主張です。

先に書いておきます。この記事を書く過程で、自分の主張の理由づけを1つ修正しました。「なぜ逃げるのか」の理由です。修正の経緯は4節に書きます。

この記事の構成
  • 1 学習は、ずれが届いたときにしか起きない
  • 2 出口は、毎秒10ビットしかない
  • 3 最適に近いほど、信号は小さくなる
  • 4 身体は、最適から逃げる(理由づけの修正)
  • 5 ゲートの閉じ方は3つある
  • 6 開け方は、閉じ方で決まる
  • 7 第1弾の4つの予測は、この原理の4つの面だった
  • 8 エンジニアの方へ:強化学習と報酬設計への翻訳
  • 9 この記事から出る、検証されていない予測(4件)
  • 10 反証を歓迎します
  • English summary
  • 文献
INDEX

1 学習は、ずれが届いたときにしか起きない

主張

身体の動かし方(制御則)は、予測した結果と実際の結果のずれによって書き換わります。ただし、そのずれが本人に届いたときだけです。届かなければ、何百回繰り返しても書き換わりません。

π新 = π旧 + η × g × δ 意味:π は制御則(感覚の入力から動作を出す規則)。δ は予測した結果と実際の結果のずれ。η は学習の速さ。g が情報ゲートで、ずれが本人に知覚されれば1、知覚されなければ0です。g がゼロなら、δ がどれだけ大きくても π は動きません。

この式には、2つのものが入っていません。

構造の項がありません。骨や関節の形が良くなっても、それは δ を生む側に影響するだけです。構造が変われば、同じ制御則が別の結果を出すので、ずれは生じます。しかしそのずれが届かなければ、制御則は旧いままです。

反復回数の項もありません。回数は δ が生じる機会を増やしますが、g がゼロのままなら、機会は何度来ても使われません。

観察

著者の口述(日付未取得)
「O脚の人が人工関節に置換してO脚が構造的に改善しても、歩行パターンが何も変化しないという事例を見た。疲労しようとも構造が変化しようとも、根強く学習された運動パターンは構造関係なく発現し続ける。」
2026年5月、講座にて
「今これぐらい振ったらこれぐらいバランス崩れるだろうって予測が入って、動いてみたら『ほらやっぱりそうね』とか『あれちょっと予測と違ったな』っていう修正を脳みそがずっとやってます。(中略)この予測と修正のスピードがとっても速い人って、動いている中でもずっとバランス取れるんです。これは筋力じゃないです。」

照合

小脳が運動の内部モデルを持ち、予測誤差にもとづいて更新するという枠組みは、運動制御の研究で広く使われています(Wolpert, Miall & Kawato, 1998)。膝関節の全置換術の後、膝の屈伸角や関節モーメントが健常者の水準に戻らないことも報告されています(McClelland ら, 2007)。ただし文献が示すのは「術後の歩行が健常者と違う」ことまでで、原因を制御則の保持とは特定していません。術後の痛み、筋力低下、インプラントによる可動域の制約という、競合する説明が残っています。

この記事で私が付け加えるのは、g です。ずれは常に生じているのに、それが学習に使われるかどうかを決める弁がある。そして、その弁が閉じる条件には決まった形がある。以下はその話です。

2 出口は、毎秒10ビットしかない

主張

人間が毎日行う動作ほど、言葉で記述されていません。立つ、歩く、しゃがむは、本人も指導者も説明できないまま実行されています。そして、その記述されていない変数が出力を支配しています。

観察

2026年8月、講座にて
「人差し指をかかとの骨に当てて、はい、ここ軸ですよって回してみて。もう一回くるぶしに持っていって。はい、ここが軸ですよっていうと、元気よく動きませんか。動き硬くなるのわかる重いのわかる認識が違うだけで動き変わります。」

物理的には何もしていません。筋も骨も同じで、変えたのは回転軸の場所を指す言葉だけです。それでも動きが変わる。制御則の入力のどこかに、その言葉が書き換えた変数があり、本人はその変数を意識していなかった、ということです。

照合

人間の感覚系が集める情報は毎秒およそ10億ビット、行動として出ていく情報のスループットは毎秒およそ10ビットと推定されています(Zheng & Meister, 2025)。比にして約1億分の1です。著者らは、個々の推定値は2倍程度の誤差を含むと断っています。

私はこの数字を、意識の狭さではなく出口の狭さとして使います。身体の中では膨大な信号が流れているのに、制御則を書き換える経路に届くのは、そのごく一部です。g が開いているかどうかは、この狭い出口に何が乗るかの問題です。

ロボット工学では、高度な推論より幼児並みの知覚と運動の方が機械に実装しにくいという観察が、モラベックのパラドックスとして知られています(Moravec, 1988)。

3 最適に近いほど、信号は小さくなる

主張

最適に近い姿勢ほど、感覚受容器に入る信号は小さくなります。感度の低い身体は、最適姿勢を「誤差のない状態」ではなく「何も分からない状態」として受け取ります。したがって感度の低い人には、正解を教えるより、荷重を足して信号を大きくする方が効きます。

観察

著者資料:Revital 運動ガイドブック 第3章「地面を押し切った状態=立つ」
「最も効率的で楽な姿勢を取れば取るほど、感覚受容器へのシグナルが少なくなるので、感覚が鈍くなってしまった人ほで[原文ママ]、検出できなくなってしまいます。」
「感覚が鈍くなっている方に対しては、ウェイトを追加し、荷重を増やしてあげた方が、バランスの修正がより簡単になります。」

同じ資料に、片側にプレートをつけたバーベルを縦に立てて手で支える例があります。垂直に近いほど力は要らず、指先の微細な感覚で調整する。少し傾くと、支えるのに必要な力が急に増える。

導出

このバーベルを式にします。

支えるのに要るモーメント = m × g × l × sin θ ≒ m × g × l × θ 傾きに気づける条件:m × g × l × θ > S閾
気づける最小の傾き:θ最小 = S閾 ÷(m × g × l) 意味:θ は垂直からの傾き。m と l は、バーベルの質量と支点から重心までの距離です(身体に置き換えれば体節の質量と長さ)。S閾 は、本人が感じ取れる最小のモーメント(回す力)の変化です。垂直に近いほど必要なモーメントはゼロに近づき、やがて閾値を下回ります。閾値の高い人ほど、大きく傾くまで傾きに気づきません。

θ最小 より小さい傾きは、すべて「傾いていない」と同じに感じられます。最適点のまわりに、違いが分からない帯ができるということです。帯の幅は閾値に比例します。

そして式の分母に m があります。質量を増やすと、帯が狭くなります。同じ傾きでも、重いものほど大きなモーメントを生むので、閾値を超えやすくなる。「ウェイトを足すと修正が簡単になる」という現場の観察は、この式から直接出てきます。質量を2倍にすれば、気づける最小の傾きは半分になります。

次元についての注記:書籍の初稿では S閾 を「力の変化」と書いていました。左辺がモーメントなので、次元を合わせるためモーメントの閾値と読み替えています。手で支える位置までの距離を入れて力に直しても、θ最小 が質量に反比例するという結論は変わりません。

第1弾の予測5では、同じ構造を足の裏について書きました。足を1枚の板とみなすと、違いが分からない帯の幅 ÷ 足の長さ = 感覚閾値 ÷(6 × 足底の平均圧)になります。バーベルと足は形が違いますが、帯の幅が閾値に比例し、荷重で狭まるという点は同じです。

照合

能動推論と予測符号化は、脳が予測と感覚のずれを小さくするように知覚と行動を選ぶ、と考えます(Friston, 2010)。この枠組みには、ずれの信号にどれだけ重みを置くか(精度)という概念がすでに含まれています。センサーの信頼度そのものは、既存の理論が扱っています。書籍の初稿では、この節に「能動推論・予測符号化が触れられなかった層」という題を付けていました。これは正確ではなかったので、題を変えました。

私の側で付け加えるのは、次の構造上の事実です。最適な姿勢は、信号が最小になる点でもある。このため最適点のまわりでは、効率の良し悪しを教えてくれる信号そのものが消えます。そこで身体に何が起きるかが、次の節の話です。

4 身体は、最適から逃げる(理由づけの修正)

主張

感度の低い身体は、最適な姿勢に留まらず、効率の悪い姿勢へ逃げます。逃げる先は、すでに持っている動かし方のうち、一番不快の少ないものです。本人には、何が起きているのか分かっていません。

観察

2026年10月、著者の口述
「感度の低い人が逃げるのは主観としては何もわかっていない。しかし脳からすると『サボることが最適解』『過去の恐怖体験を避ける』『扁桃体が反応して不快を感じ取った海馬の「場所(空間)」「人」「シチュエーション(状況)」の記憶から離れる』というのが本来の機能。だから逃げるというのは、既知の快に走るということになる。運動プログラム(その神経回路)がない場合は、既存の回路をとりあえずで使い、一番不快の少ない近いもので代替する。そういうニュアンスを現場で感じる。」

この口述は、この記事を書く過程で、私の最初の理由づけが式にして崩れたことを受けて取ったものです。経緯を順に書きます。

最初の理由づけは、式にすると向きが合わなかった

効率だけを考えるなら、逃げる理由はありません。逃げるには、効率とは別の理由が要ります。

書籍の初稿では、能動推論の考え方に沿って、「自分の状態が分からないことを嫌う」を理由に置いていました。感度の低い人は分からない帯が広いので、分からなさを嫌って帯の外に出る、という説明です。

これを式にすると、感度の低い人ほど逃げる、という向きが出ません。

帯の外へ出る無駄 ∝ θ最小² 帯の外へ出て減る分からなさ ∝ θ最小(幅で測る)、log θ最小(情報量で測る)、θ最小²(分散で測る) 意味:無駄は、最適点からのずれの二乗で増えます(第1弾 予測5)。帯の外に出ると「どちらに傾いているか」が分かるようになり、分からなさが減ります。ところがその減り方は、どの測り方をしても帯の幅の二乗より速くは増えません。幅や情報量で測れば、帯が広いほど払う無駄の方が速く大きくなり、感度の低い人ほど逃げなくなります。分散で測っても、逃げるかどうかは感度によらなくなるだけです。

問題の根は、「逃げる」を、無駄を払って何かを買う取引として書いたことにあります。取引として書く限り、帯が広い人ほど払う額が大きくなるので、逃げにくくなってしまう。

向きが合う説明:最適が見えないので、習慣が残る

上の口述は、取引ではない説明を与えています。逃げるために何かを払う必要はありません。習慣の姿勢は、最初からそこにある。最適の方が見えないだけです。

習慣が直される条件:|x習慣 − x最適| > θ最小 意味:x習慣 は、その人がすでに持っている回路が作る姿勢。x最適 は、筋の活動が最も少なくて済む姿勢。習慣の姿勢が帯の外にあれば、最適との差が信号として届き、習慣は最適の方へ引き戻されます。帯の中にあれば、差は届かないので、習慣がそのまま残ります。

帯が広い(感度が低い)ほど、帯の中に収まる習慣が多くなります。だから感度の低い人ほど、最適から離れた姿勢のまま立っている。向きが合います。そして第1弾の予測5に書いた「最適化は、感覚で見えるコストの差しか使えない」と、同じことを別の側から言っています。

では、その習慣はどこから来るのか。口述によれば、一番多く使ってきた回路と、不快や恐怖を避けるために作られた回路です。これは書籍の他の章とつながります。痛みが消えた後も、痛みを避けるために作られた歩き方が残る(序章0-1、8-2節)。疲労で資源が減ると、動作はその人が最も多く使っているパターンに戻る(第3弾の予測10)。並べると、1つの形になります。

情報が足りないとき(帯の中)も、資源が足りないとき(疲労)も、身体は最も慣れた回路に戻る。

照合

到達運動の実験で、誤差を直さなくてよい方向では、動きが直前に繰り返した方向へ寄っていくことが報告されています(使用依存の学習。Diedrichsen ら, 2010)。誤差を直す必要のある方向では、誤差にもとづく学習が働き、ずれが打ち消されます。習慣が残るかどうかを、誤差の信号が働くかどうかが分けている、という点で、この節の説明と一致します。

違いもあります。この研究で誤差が直されなかったのは、その方向の誤差が課題の成否に関係しなかったからです。この節で誤差が直されないのは、誤差が感じ取れないからです。理由は違いますが、結果は同じ形をしている、というのが私の側の拡張です。

恐怖の条件づけに扁桃体が関わり、場所や状況のような複数の感覚にまたがる文脈との結びつきに海馬が要ることは、動物実験で示されています(Phillips & LeDoux, 1992)。口述の扁桃体と海馬の記述は、この知見とおおむね整合します。それが姿勢の選び方につながるという部分は、著者の現場での見立てで、照合した文献はありません。

別の説明:倒れる危険を避けている

向きが合う説明は、もう1つあります。書いておきます。

立っている身体は倒立振り子で、垂直は不安定な釣り合いです。帯の中では、傾きが気づかれないまま育ちます。帯が広い人ほど、気づいたときにはもう立て直せない位置に近づいているかもしれない。その危険を避けるために、無駄を払ってでも信号の入る位置に出る、という説明です。

逃げる条件:C × R(θ最小 ÷ θ回復)> c × θ最小² 意味:R は、気づけない傾きのまま立て直せる限界 θ回復 に近づく確率で、θ最小 ÷ θ回復 が1に近づくと急に大きくなります。C は倒れたときの代償。右辺は、信号の入る位置に出て留まる無駄です。感度が低いほど左辺が急に増え、右辺を追い越します。

これも取引として書いていますが、危険の側が帯の幅に対して急に立ち上がるので、向きが合います。そして、高い所の縁に立つと人が縁から離れる向きに重心を移すことは、繰り返し報告されています(Carpenter ら, 1999/Adkin ら, 2000。総説で調べられた8研究すべてで確認。Adkin & Carpenter, 2018)。危険が平均の位置を動かすこと自体は、既知です。

2つの説明は排他的ではありません。両方が働いている可能性もあります。ただ、予測は分かれます。習慣の説明なら、新しく習慣を作れば、閾値の高い人ほどその習慣に戻るはずです。危険の説明では、習慣を作っても危険の形は変わらないので、何も起きません(予測13)。

もう1つの読み方:逃げているのではなく、止まれないだけ

もっと単純な説明も書いておかなければなりません。

帯の中では制御が効きません。倒立振り子の傾きは垂直から離れる向きに自分で育つので、身体は最適点に止まれず、帯の端まで流れていきます。押し戻す力は帯の外に出た分にしか働かないので、身体は帯の片側に張りつき、端を少し越えた位置で、押し戻す力と倒す力が釣り合います。

受動的な釣り合いの位置:θ受動 = θ最小 × K ÷(K − m × g × l) 意味:K は押し戻すときの硬さ(傾き1あたりに足首で生む回す力)、m × g × l は重力が倒そうとする側の硬さです。θ受動 ÷ θ最小 は K と m × g × l だけで決まり、感覚の閾値にはよりません。

この位置で釣り合うことは、遅れと雑音を入れた数値計算で確かめています[計算]。押し戻す硬さを3通り、帯の幅を4通り変えた12の組み合わせすべてで、釣り合いの位置はこの式と一致しました。

この読み方なら、「逃げる」も「習慣」も置かずに、感度の低い人ほど最適点から離れていることが説明できます。第1弾の予測5(閾値が高いほどずれが大きい)は、この読み方でも成り立ちます。ただしこの読み方では、習慣を作っても、高い所に立っても、閾値によって変わる効果は出ません。予測13と14は、どちらもこの読み方を外すことができます。

判定

修正。主張(感度の低い身体は最適から逃げる)は維持し、理由づけを「分からなさを嫌うから」から「最適が見えないので、すでにある回路のうち一番不快の少ないものが残るから」に差し替えます。「倒れる危険を避けている」という説明は、向きの合う別の候補として残し、予測で区別します。

第2弾の追記と第3弾の6節に、「落ちたのは主張ではなく、主張の理由づけである」という形の棄却を書きました。これで3件目になります。主張は現場の観察が支えていて、理由づけは後から付けたものでした。今回は、理由づけが式で崩れた後に、現場の見立てがそれを置き換えました。

5 ゲートの閉じ方は3つある

g がゼロになる条件を並べます。書籍の各章で別々に書いてきたものを、ここで1つの表にします。

閉じ方何が起きているか例
閾値ずれが感覚の閾値を下回り、届かない最適点のまわりの帯(3節)
競合精度の高い別のチャネルが、ずれを先に解消してしまう鏡、外からの正解の提示
割り込み優先度の高い層が筋を占有し、更新の余地がない痛み、反射

競合:鏡と、外からの正解

講座にて(日付未取得)
「だから今日、鏡は持ってきてません。鏡見ちゃうと、自分の感覚に頼るってことをしなくなっちゃうんですね。なんか見た目で修正しちゃうんですよ。(中略)大事なのは感覚です。」
2026年8月、講座にて
「鏡。自分に入っていけなくなるんです。」
著者の口述(日付未取得)
「身体は直接だろうと間接的にであっても見てはいけない。」

予測と結果のずれは、複数のチャネルで同時に検出されます。視覚のずれと、固有受容感覚のずれです。どちらのずれを使って修正するかは、それぞれの精度で決まります。視覚は精度が高い。鏡があれば、位置のずれはほぼ視覚だけで解消できます。すると固有受容感覚のずれは、修正に使われないまま残ります。鏡の前ではできるのに鏡がないとできない、という現象はこれです。学習されたのは視覚を使った補正であって、身体の内部モデルではありません。

「間接的にでも」という条件が大事です。自分の影、ガラスへの映り込み、手元を見下ろすことも同じ働きをします。

指導者が正解を言葉で与え続けることも、同じ構造です。

2026年7月、講座にて
「自分で探せるね無理だったらこの辺で作りたいなはいオッケーこうやって自分で学習頑張ろう無理だって思ったら先生のとこ来てください」

外から正解が与えられている限り、δ は外部の情報で解消され、内部のずれとして使われません。フィードバックには2つの相反する働きがあります。初期には正しい方向を示すために要る。後期には内部モデルの更新を妨げる。上の発言は、その移行を1つの言葉で行っています。「自分で探せ」と渡し、「無理だったら来い」と戻る場所を残す。

照合:フィードバックを与える頻度が高いほど練習中の成績は良くなるが、フィードバックのない保持テストでは頻度を下げた条件の方が成績が良いことが報告されています(Winstein & Schmidt, 1990)。フィードバックへの依存が生じるためだと説明されています(誘導仮説。Salmoni, Schmidt & Walter, 1984)。この節は、文献の裏づけが最も明確な部分です。

割り込み:痛み

2026年3月、講座にて
「どっか痛いところがあると、絶対に抑制がかかるんですよ。(中略)痛みがなくなった後も、その人どういう脳みそになってるかっていうと、痛くないかどうかが最優先になるんですよ。だから、いい運動じゃなくて、痛くない運動を探し出すんですね。これを回避行動とか回避運動って言ったりします。」

同じ筋を、反射、手続き記憶、意識的な運動の3つの層が取り合っています。優先度はこの順です。上位が働いている間、下位の指示は届きません。痛みがある人に動作を教えても、反射が優先されるので定着しない。

そして上の発言の後半が重要です。痛みが消えた後も、「痛くないこと」を目的にした動かし方が残る。1節の式で言えば、制御則 π は、それを作った原因が消えた後も残ります。

照合:侵害刺激に対する反射的な筋活動の抑制(関節原性筋抑制など)は標準的に報告されています(Rice & McNair, 2010)。3層の優先度という整理は私によるもので、計算機の割り込み優先度との対応は比喩です。

6 開け方は、閉じ方で決まる

ゲートの閉じ方が3つあるなら、開け方も3つあります。そして、閉じ方に合わない開け方は効きません。

閉じ方開け方具体的な手
閾値信号を大きくする荷重を足す。誤りを誇張する
競合競合するチャネルを外す鏡を外す。フィードバックを段階的に抜く
割り込み割り込みを止める先に痛みを扱う。反射が出ない条件を作る

信号を大きくするもう1つの手:誤りを誇張する

荷重を足すのは、θ最小 を小さくして帯を狭める手でした。もう1つ、ずれ δ そのものを大きくする手があります。

2026年4月、講座にて
「小指荷重でブンブン続けたまんま膝中入れてって親指体重に変えようはい、どうだった気持ち悪いはい、もう1回外側体重戻して。」
2026年3月、個別指導にて
「絶対、これを見つけられる人は、検証するんですよ。こっちだとどうかな、こっちだとどうかな、両方実験します。しかも、この実験をかなり大げさな方向に振ってやるんですよ。ちょっと変えるかどうか分からないんですよ。」

「膝を内に入れるな」と禁止しても、膝の位置は関数の値であって、変数ではありません。誇張は禁止とは別の操作です。誤った配置を意図的に大きく作り、正しい配置と並べて、本人に比べさせる。小さく変えたのでは、差が帯の中に収まって分からない。大げさに振れば、差は帯の外に出ます。

そして判定を本人が行います。指導者が「こちらが正しい」と言えば、それは外から与えられた正解で、競合チャネルになります。本人が「気持ち悪い」と報告し、本人が選べば、内部モデルが更新されます。

照合:誤差を意図的に増幅して学習を促す手法(エラー増幅)は、運動学習とリハビリテーションの研究で報告されています(Patton ら, 2006)。私がこの手法を使う目的は、本人に選ばせるための比較材料を作ることです。

原理として

ここまでを1行にすると、こうなります。

指導とは、解を与えることではなく、情報経路を開くことである。

解を与えることは、競合チャネルを1本増やすことです。うまくいって見えるほど、ゲートを閉じています。

7 第1弾の4つの予測は、この原理の4つの面だった

第1弾で登録した予測のうち4つは、この記事の原理から出ています。登録したときは別々の予測として書きましたが、並べるとこうなります。

第1弾の予測扱っているゲートこの記事との対応
予測4 鏡練習の保持劣化は、個体によって符号が反転する競合視覚の精度が高すぎると、固有受容感覚のずれが使われない
予測4b 動かないのは個体ではなくチャネルである競合閉じているのは個体ではなく、特定のチャネルの経路
予測5 足底の感覚閾値と姿勢効率の逆相関閾値最適点のまわりの、違いが分からない帯
予測6 内受容感覚と疲労下の最適化閾値(遅れ)疲労の信号が遅れて届くと、最適化がなめらかに進まない

これらのうち1つが外れても、原理全体が倒れるわけではありません。しかし4つがそろって外れれば、情報ゲートという原理そのものを撤回することになります。逆に、4つがそろって当たれば、それは4つの別々の発見ではなく、1つの原理の確認です。

8 エンジニアの方へ:強化学習と報酬設計への翻訳

私は強化学習の専門家ではありません。以下は、ここまでの構造を工学の言葉に置き直したもので、主張ではなく問いとして置きます。対応する研究をご存じの方は、教えてください。

最適点は、観測が消える点でもある

報酬の勾配が最適点の近くで小さくなることは、よく知られていると思います。私が言っているのはそれとは別の層です。最適点の近くで小さくなるのは、報酬ではなく観測そのものです。最適な姿勢とは支えに力が要らない姿勢で、力が要らなければセンサーには何も来ません。センサーに不感帯があれば、最適点のまわりは、どの状態も同じ観測を返す領域になります。

この領域の中では、ゲート g がゼロです。どれだけ試行を重ねても、方策は更新されません。

観測が消える領域では、習慣が決める

4節の結論を置き直すとこうなります。最適点のまわりで観測が区別を失うなら、そこには最適点へ向かう勾配がありません。勾配のない領域では、方策は、過去に最も多く使った行動に引っ張られたまま動かないはずです。最適点から逃げているように見えるのは、逃げているのではなく、習慣の引力に対抗するものが何もないからです。報酬を最適点に向けて整形しても、エージェントがそこにいることを観測できなければ、習慣を上書きする材料になりません。

制御対象が不安定なら、別の力も働きうると思います。観測できない間に状態が育つので、観測できない領域に留まること自体が危険になる。その危険を考慮するエージェントも、最適点を避けるはずです。どちらが効いているかは、4節と同じく、習慣を新しく作ったときの振る舞いで区別できると考えています。

正解を渡すのではなく、ゲインを上げる

人間の現場でこれを解いている手は、正解を教えることではありませんでした。質量を足して、同じ状態のずれがより大きな信号になるようにすることでした。工学で言えば、制御対象のゲインを上げてセンサーの不感帯を状態空間の中で狭めることに当たると思います。訓練中に誤差を誇張する手(エラー増幅)も、同じ方向の操作です。

特権的な情報は、外す時期を設計する

鏡と外からのフィードバックは、訓練中だけ使える、精度の高い追加の観測です。それがある間は成績が良く、外すと崩れる。これは訓練時にだけ与えられる情報への依存として、機械学習の側にも対応する現象があるように見えます。人間の現場での答えは、前半は満額で与え、後半は段階的に抜く、でした。

この節の対応づけには、私が照合した文献はありません。強化学習の側の専門家から見て、すでに知られていること、間違っていること、あるいは新しいことがあれば、知りたいと思っています。

9 この記事から出る、検証されていない予測(4件)

第1弾で8件、第3弾で4件を登録しました。この記事から4件を追加します。番号は続けて13からです。

書籍の0-6節には「感度の閾値が高い人ほど、荷重を増やしたときの立位の重心動揺の減少が大きい」という予測があります。これは第1弾の予測5(効率の側)の因果の検証と重なり、動揺の側は既存の研究に近いので、ここでは別に登録しません。3-9節と11-6節の予測(鏡なし・フィードバックを抜く条件の方が保持が良い)も、第1弾の予測4と既存の研究で扱われているので登録しません。

予測13 新しく作った習慣に、閾値の高い人ほど戻る

前提:静止立位の筋活動に、圧力中心の前後位置に対する個人ごとの最小点がある。足部の神経障害がない。数日の練習では、足関節まわりの力学は変わらない。

測定方法:第1弾の予測5と同じ手続きで、個人の最適点を求めます(フォースプレート上で視覚フィードバックを使い、圧力中心を前後に1cm刻みで保持させ、ヒラメ筋・前脛骨筋・脊柱起立筋の筋電図の総和が最小になる位置)。足底の感覚閾値をモノフィラメントと振動覚で測ります。参加者を無作為に2群に分け、最適点より2〜3cm前、または2〜3cm後ろで立つ練習を、視覚フィードバックを使って数日間行います(例:1日10分を5日)。練習が終わった翌日、フィードバックなしで60秒の自然立位を測り、最適点からの前後のずれ D を、前を正として求めます。最適点は練習の後にも測り直し、動いていればそちらを基準にします。

予測:D は練習した側にずれる。そしてずれは、閾値の高い人ほど大きい。閾値の低い人では、練習した姿勢の余分なコストが足底の信号として届くので、最適点へ戻っていきます。

理論が分岐する点:

  • 受動的な不感帯の読み方:釣り合いの位置は力学で決まり、練習では変わらない。翌日には元の位置に戻る
  • 倒れる危険を避ける説明:危険の形は練習で変わらないので、D は練習の影響を受けない
  • 分からなさを嫌う説明(4節で棄却した形):帯の幅は練習で変わらないので、影響なし
  • 使用依存の学習(既知):繰り返した方向へ寄ることは予測するが、それが感覚の閾値によって変わるとは述べていない
  • 習慣が残る説明(本理論):練習した側へずれ、そのずれは閾値の高い人ほど大きい。練習した側と閾値の交互作用が出る

外れた場合に何が壊れるか:練習した側へのずれが全員に同じ大きさで出るなら、それは既知の使用依存の学習で、4節の「帯の中では習慣が残る」という説明は余分だったことになります。ずれがまったく出ないなら、習慣の説明そのものが外れ、4節の判定を「倒れる危険を避ける説明」に差し替えて、予測14で確かめます。

予測14 姿勢への脅威による退避は、閾値の高い人ほど大きい

前提:予測13と同じ。高い所に立っても、身体の質量や重心の高さは変わらない。

測定方法:同じ人で、床の高さに立つ条件と、高い台の前の縁近くに立つ条件の2つで、予測13と同じ手続きで最適点からのずれ D を測ります。足底の感覚閾値も測ります。高い台の条件では足関節を硬くする反応が出ることが知られているので、足関節の硬さ K を条件ごとに測り、受動的な釣り合いの位置 θ受動 も条件ごとに計算します。

予測:高い台の条件で、縁から離れる向きの退避が増える。ここまでは既知です(Carpenter ら, 1999/Adkin ら, 2000)。この理論の予測はその先にあります。増え方は、閾値の高い人ほど大きい。閾値と高さの交互作用が出る。

理論が分岐する点:

  • 分からなさを嫌う説明:帯の幅は高さで変わらないので、交互作用は出ない
  • 受動的な不感帯の読み方:高さで K が上がれば θ受動 はむしろ θ最小 に近づき、ずれは小さくなる。閾値の高い人ほど退避が増えるという形は出ない
  • 既知の解釈(安全の余裕を広げる反応):縁から離れることは予測するが、感覚の閾値との関係は述べていない
  • 倒れる危険を避ける説明:代償 C が大きくなると、θ最小 ÷ θ回復 が1に近い人ほど退避が大きく増える
  • 習慣が残る説明(本理論):脅威が恐怖を避けるために作られた回路を呼び出す。閾値の高い人ではその姿勢の余分なコストが届かないので、引き戻すものがなく、退避が大きくなる

この予測は、2つの説明(習慣と危険)を区別しません。どちらも交互作用を予測します。区別するのは予測13です。この予測が外すのは、受動的な読み方と、分からなさを嫌う説明です。

外れた場合に何が壊れるか:交互作用が出なければ、4節のどちらの説明も、既知の「縁から離れる反応」以上のことを言えなくなります。

予測15 誇張の効果は、自分の誤りを検出できない人ほど大きい

前提:誤った配置を誇張した体験が、本人の比較の材料として働く。

測定方法:課題は、スクワットでの膝の内側への入り、または片脚立ちでの荷重位置。事前に、目を閉じた状態で、誤った配置と正しい配置を区別できるかを測ります(検出能力)。2群に分けます。誤った配置を誇張して体験させてから正しい配置と比べさせる群と、正しい配置だけを指導する群。練習の量はそろえます。1週間後に、フィードバックなしの保持テストを行います。

予測:誇張群の方が保持が良い。そして差は、事前の検出能力が低い人ほど大きい。

理論が分岐する点:エラー増幅が学習を促すこと自体は報告されています(Patton ら, 2006)。この理論に固有なのは、効果が検出能力によって調整されることです。誇張は信号を閾値の上に持ち上げる操作なので、もともと閾値の上で誤りを検出できている人には、上乗せが小さいはずです。誇張が効くのは注意を引くから、記憶に残るから、という説明は、検出能力による調整を予測しません。

外れた場合に何が壊れるか:誇張を「信号を大きくする手」として位置づける根拠が壊れます。6節の表の、閾値の行の片側が崩れます。

予測16 ゲートの閉じ方と、効く介入は交差する

前提:ゲートの閉じ方に、閾値による閉じ方と、競合チャネルによる閉じ方の区別がある(5節)。

測定方法:事前に2つの型に分けます。閾値型は、足底の感覚閾値が高い人(モノフィラメントと振動覚)。競合型は、目を開けた条件と閉じた条件で課題成績が大きく落ちる人(視覚への依存度)。両方に当てはまる人とどちらにも当てはまらない人は、別に扱います。介入を2種類、同じ期間行います。増幅(体重の10〜20%のベストを着けて練習する)と、除去(鏡なし、視覚を外して練習する)。結果は、介入のない条件での動作の効率(第1弾の予測5の手続き)または保持テストで測ります。

予測:閾値型は増幅で改善し、除去では改善しにくい。競合型は除去で改善し、増幅では改善しにくい。どちらの介入が良いかの順位が、閉じ方によって入れ替わる。

理論が分岐する点:一般的な見方では、介入には全員に共通する効き目の大小があります。順位は人によらず同じで、差は効き目の大きさだけです。この理論は、交差する交互作用を予測します。

外れた場合に何が壊れるか:ゲートの閉じ方を分ける根拠が壊れます。情報ゲートは1つの量として扱うしかなくなり、6節の「開け方は閉じ方で決まる」を撤回します。

予測16は、書籍の各章が別々に書いてきたゲートの閉じ方(8-7節の整理)から、この記事で導いたものです。書籍の中には予測としては書かれていません。

10 反証を歓迎します

この記事で一番弱いのは、4節です。理由づけを修正した直後です。修正後の説明(最適が見えないので習慣が残る)は、使用依存の学習という既知の現象と同じ形をしていて、私の現場での見立てとも一致します。しかし、習慣が残るかどうかが感覚の閾値で変わることを示した観察は、私の手元にも、私が照合した文献にもまだありません。別の候補(倒れる危険を避ける)も残っています。予測13と14は、そこを確かめるために書きました。

4節で扁桃体と海馬に触れた部分は、私の現場での見立てです。神経科学の側から見て行き過ぎていれば、指摘してください。

4節の「分からなさを嫌う説明では向きが合わない」という導出は、単純な形で書いたものです。能動推論の枠組みには、精度の推定や将来の行動系列にわたる評価など、より豊かな形があります。その形で向きが回復するなら、私の修正は不要だったことになります。ご存じの方は教えてください。

8節の工学への翻訳は、私が照合した文献を持たない部分です。強化学習の側から見て間違っていれば、指摘してください。

私は研究の作法を正式に学んだ人間ではありません。24年間、現場で観察と試行を続けてきただけです。誤りがあれば、新しいバージョンで直します。訂正前の版も、参照できる形で残します。

連絡先:contact@medi-gym-revital.com
引用:栗山智光(2026)「最適解は、信号ゼロとして現れる ― 情報ゲートと、身体が最適から逃げる理由」The Kuriyama Protocol 記事第4弾. DOI: 10.5281/zenodo.23609857

English summary

The Optimum Appears as Signal Zero, Not Error Zero: The Information Gate and Why Bodies Flee Their Own Optimum

Chiaki Kuriyama, Human Concierge Association (Japan)
Published 2026-10-24 · DOI: 10.5281/zenodo.23609857 · Contact: contact@medi-gym-revital.com
Part 4 of a series. Part 1: 10.5281/zenodo.23587879 · Part 2: 10.5281/zenodo.23587670 · Part 3: 10.5281/zenodo.23526074

Abstract

This is the fourth article in a series presenting a body-control framework developed over 24 years of field instruction. It states the framework's information-gate principle and shows that four of the eight predictions registered in Part 1 (P4, P4b, P5, P6) are facets of it.

The gate. Motor control laws update as π_new = π_old + η·g·δ, where δ is the prediction error and g ∈ {0, 1} is a gate indicating whether that error reaches the learner. The update contains no term for structure and no term for repetition count: if g = 0, neither surgical correction of the skeleton nor repeated practice changes the control law.

The optimum is a sensory null. The most efficient posture is the one requiring the least supporting moment, and therefore the one delivering the least signal to mechanoreceptors. For an inverted pendulum of mass m and lever arm l, the smallest detectable tilt is θ_min = S_th / (m·g·l), where S_th is the moment detection threshold. Every tilt smaller than θ_min feels identical to no tilt, creating a dead band around the optimum whose width scales with the threshold. Adding mass narrows it: doubling m halves θ_min. This is why, in the field, adding load works better than instruction for low-sensitivity individuals — the intervention raises plant gain rather than supplying the answer.

A rationale corrected in this article. The author's field claim is that low-sensitivity individuals do not rest at the optimum but settle in inefficient postures. The original rationale — aversion to uncertainty about one's own state, as in active inference — fails when formalized: written as a trade (pay effort to buy information), the effort cost of leaving the band grows with θ_min², while the reduction in uncertainty grows no faster (linearly in width, logarithmically in entropy, quadratically in variance), so it predicts that low-sensitivity individuals flee no more than others — and, on the first two measures, less. The replacement, taken from the author's field account, is not a trade at all: the habitual posture is already there, and the optimum is invisible. A habit is corrected only if |x_habit − x_opt| > θ_min; inside the band, the cost difference never arrives, and the habit — the nearest existing motor program with the least discomfort, including programs built to avoid past pain and fear — persists. Wider bands leave more habits uncorrected, which gives the observed direction. This matches use-dependent learning, in which movements drift toward recently repeated movements along dimensions where errors are not corrected (Diedrichsen et al., 2010); the extension here is that errors go uncorrected because they cannot be sensed, not because they are task-irrelevant. It also links the dead band to fatigue (Part 3, P10): when information is short and when resources are short, the body falls back to its most practiced circuit.

Two alternatives are kept and made testable. (i) Risk: in an unstable plant, undetected tilt may approach the recovery limit θ_rec; fleeing pays when C·R(θ_min/θ_rec) > c·θ_min², with C the cost of a fall. Lean-away under postural threat is well established (Carpenter et al., 1999; Adkin et al., 2000; review: Adkin & Carpenter, 2018). (ii) Passive: with a dead band and an unstable plant, the body settles at θ_passive = θ_min·K/(K − m·g·l), with K the ankle stiffness (confirmed numerically across 12 parameter combinations with feedback delay and noise); θ_passive/θ_min does not depend on sensory threshold. Prediction 13 separates the habit account from both; Prediction 14 separates habit and risk together from the passive account.

Three ways the gate closes, three ways to open it. Threshold (the error lies below detection) is opened by amplifying the signal: adding load, or exaggerating the error. Channel competition (a higher-precision channel such as a mirror or external feedback resolves the error first) is opened by removing the competing channel or fading feedback. Interrupt (pain or reflex occupies the musculature with higher priority) is opened by addressing the interrupt first. The principle: instruction is not supplying the solution but opening the information path. Supplying the solution adds a competing channel.

For RL and control readers (posed as questions, not claims; the author has no RL training and has not checked this section against literature): the optimum here is a null not of reward but of observation; inside a sensor dead band the update gate is zero regardless of trial count, so there is no gradient toward the optimum and the policy stays where its most-used actions put it — apparent avoidance of the optimum may be nothing more than an unopposed habit prior; in an unstable plant, the risk of unobserved drift may add a second push away; the field solution was to raise plant gain, not to provide the label; and mirror/feedback dependency resembles dependence on information available only during training.

Registered predictions

Prediction 13. A newly trained habit persists more in high-threshold individuals. Find each individual's optimum as the centre-of-pressure position minimizing summed EMG (soleus, tibialis anterior, erector spinae; procedure as in Part 1 P5), and measure plantar sensory threshold. Randomly assign participants to practise standing 2–3 cm in front of, or behind, their optimum with visual feedback for several days (e.g., 10 min/day for 5 days). The next day, without feedback, measure the signed offset D from the (re-measured) optimum in 60 s of quiet stance. Prediction: D shifts toward the practised side, and the shift is larger in higher-threshold individuals (practised side × threshold interaction). Passive, risk and uncertainty accounts predict no lasting effect of practice. Use-dependent learning predicts a shift but no dependence on threshold. If the shift is uniform, the habit account adds nothing to use-dependent learning; if absent, the habit account fails and the risk account is tested by P14.

Prediction 14. Threat-induced fleeing is larger in high-threshold individuals. In the same individuals, measure D at ground level and near the front edge of an elevated platform, re-measuring ankle stiffness K in each condition (threat is known to stiffen the ankle). Lean-away under threat is already established; the prediction is the threshold × height interaction. Both the habit account (threat recruits fear-avoidance programs whose extra cost high-threshold individuals cannot sense) and the risk account predict the interaction; the uncertainty account and the passive account (stiffening moves θ_passive toward θ_min) do not. If no interaction appears, neither surviving account says anything beyond the known lean-away response.

Prediction 15. The benefit of error exaggeration is larger in those who cannot detect their own error. Pre-test eyes-closed discrimination of incorrect vs correct configuration; train with exaggerated-error comparison vs correct-only instruction; test retention at one week without feedback. Prediction: exaggeration improves retention, with a larger benefit for poor detectors. Error augmentation itself is reported (Patton et al., 2006); the moderation by detection ability is specific to this framework.

Prediction 16. Gate type and effective intervention cross over. Classify individuals as threshold-type (high plantar threshold) or competition-type (large eyes-open/eyes-closed performance drop). Apply amplification (weighted vest, 10–20% body mass) or removal (no mirror, vision withdrawn). Prediction: threshold-type improves with amplification but not removal; competition-type the reverse. A uniform ranking of interventions across individuals falsifies the gate taxonomy. This prediction is derived in this article from the book's taxonomy and is not stated as a prediction in the book.

Request

Refutations are welcome. The weakest part is the corrected rationale in section 4. It has the same form as use-dependent learning and matches the author's field account, but no observation — the author's or, to his knowledge, in the literature — yet shows that habit persistence depends on sensory threshold, and the risk account remains a live alternative. The references to the amygdala and hippocampus in section 4 are the author's field interpretation; corrections from neuroscience are welcome. The claim that uncertainty aversion fails to predict the observed direction is derived in a simple form; richer active-inference formulations (precision estimation, expected free energy over policies) may recover it, in which case the correction was unnecessary. Section 8's translation to RL has not been checked against any literature. Corrections will be issued as new versions, with earlier versions kept retrievable.

文献

項目書誌
姿勢への脅威(総説)Adkin AL, Carpenter MG (2018). New insights on emotional contributions to human postural control. Frontiers in Neurology, 9, 789. DOI: 10.3389/fneur.2018.00789
姿勢への脅威の段階Adkin AL, Frank JS, Carpenter MG, Peysar GW (2000). Postural control is scaled to level of postural threat. Gait & Posture, 12(2), 87-93. DOI: 10.1016/S0966-6362(00)00057-6
高所での立位Carpenter MG, Frank JS, Silcher CP (1999). Surface height effects on postural control: a hypothesis for a stiffness strategy for stance. Journal of Vestibular Research, 9(4), 277-286.
能動推論・
自由エネルギー原理
Friston K (2010). The free-energy principle: a unified brain theory? Nature Reviews Neuroscience, 11(2), 127-138. DOI: 10.1038/nrn2787
膝関節全置換術後の歩行McClelland JA, Webster KE, Feller JA (2007). Gait analysis of patients following total knee replacement: a systematic review. The Knee, 14(4), 253-263. DOI: 10.1016/j.knee.2007.04.003
使用依存の学習Diedrichsen J, White O, Newman D, Lally N (2010). Use-dependent and error-based learning of motor behaviors. Journal of Neuroscience, 30(15), 5159-5166. DOI: 10.1523/JNEUROSCI.5406-09.2010
モラベックのパラドックスMoravec H (1988). Mind Children: The Future of Robot and Human Intelligence. Harvard University Press.
誤差の誇張Patton JL, Stoykov ME, Kovic M, Mussa-Ivaldi FA (2006). Evaluation of robotic training forces that either enhance or reduce error in chronic hemiparetic stroke survivors. Experimental Brain Research, 168(3), 368-383.
恐怖の条件づけ
(扁桃体と海馬)
Phillips RG, LeDoux JE (1992). Differential contribution of amygdala and hippocampus to cued and contextual fear conditioning. Behavioral Neuroscience, 106(2), 274-285. DOI: 10.1037/0735-7044.106.2.274
関節原性筋抑制Rice DA, McNair PJ (2010). Quadriceps arthrogenic muscle inhibition: neural mechanisms and treatment perspectives. Seminars in Arthritis and Rheumatism, 40(3), 250-266.
誘導仮説Salmoni AW, Schmidt RA, Walter CB (1984). Knowledge of results and motor learning: a review and critical reappraisal. Psychological Bulletin, 95(3), 355-386.
フィードバック頻度と保持Winstein CJ, Schmidt RA (1990). Reduced frequency of knowledge of results enhances motor skill learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 16(4), 677-691.
小脳の内部モデルWolpert DM, Miall RC, Kawato M (1998). Internal models in the cerebellum. Trends in Cognitive Sciences, 2(9), 338-347.
情報のスループットZheng J, Meister M (2025). The unbearable slowness of being: Why do we live at 10 bits/s? Neuron, 113(2), 192-204. DOI: 10.1016/j.neuron.2024.11.008

この記事の作り方について

構成は、節ごとに主張・観察・導出・照合・判定の順で書いています。主張が先、文献が後です。現場で立てた主張を、後から文献に照合しています。照合した結果、持たなくなったものは棄却または修正として公開します。この記事の4節がそれです。

観察の引用は、講座や口述の記録からの逐語です。日付が記録にないものは「日付未取得」と書いています。書き物の資料からの引用は「著者資料」と書き、講座の逐語と区別しています。

導出の数式化と、文献の照合には、AIを検証装置として使っています。4節の理由づけの修正は、主張を式にする過程で見つかったものです。

ライセンス:CC BY 4.0。出典を示していただければ、自由に使っていただけます。

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